入江君人『神さまのいない日曜日』1
- 作者: 入江君人,茨乃
- 出版社/メーカー: 富士見書房
- 発売日: 2010/01/20
- メディア: 文庫
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アイちゃん可愛いよアイちゃん。
富士見ファンタジア大賞から出た、久しぶりの大賞受賞作。
っつーことで編集からのプッシュも厚く、一巻の内容もCDドラマとして発売中であります。ハンプニーのDVシーン怖くて視聴する勇気ねえけど。
なーんかにちゃんねるでスレ検索しても、アンチが立てた作品スレしかなくて、何でそんなに人気が無いんだよという現状。作者の人格攻撃とかあるしなんだこれ。俺は大好きだ。
イラストは正直微妙なんですよね。ハンプニーの口絵が中二病キャラにしか見えなかったんですが、読んでみたらわりとそうでもなくて拍子抜け。三巻のアリスも中二っぽくてそうでもないキャラかと期待。
神さまに見捨てられ、人は死んでも死なず、子供は生まれなくなった世界。ファンタジーということで異世界ファンタジーと思って手を伸ばしたんですが、ハンプニー登場のあたりから銃とかテレビとか新聞が普通にあるのが判明してあれっという感じ。パラレル未来世界みたいのようですね。
そんな調子で世界観が分かりづらい部分がありますが、まあこの特殊性だけ抑えておけばまあOK。世界がよく分からんのは主人公のアイも同じです、うん(車もラジオも二巻が初体験)。
設定は一見ゾンビ物ですが、別にゾンビとバトルしたりはしません。ラストはそうなりますが、要点はアイと人食い玩具(ハンプニー・ハンバート)の出会いと別れでしょうか。
墓守の少女・アイは十二歳。暖かいけれど何かを隠す村人たちに育てられた彼女を、ある日殺戮の嵐が襲います。村を殲滅した少年は、アイの父親として聞かされていた「人食い玩具」を名乗り……とまずはドラマチックな展開に。父親ですから! という理由でアイはハンプニーについて行っちゃうので、この辺で脱落する方は割と居た模様。
人によっては途中で予想が付く(私も事前情報で分かっちゃってた)のですが、ハンプニーが村を襲ったのはそれなりに理由があり、アイもハンプニーと行動を共にすることでそれに気がつきます。
ただ、アイがハンプニーにあっさり懐いちゃうのはもう少しどうにかならなかったのかな。
話的に必要なのは分かるし、村を襲われたアイの葛藤や苦しみは充分に書かれてるんですが、仇討ちのためについて行くよ! ぐらい分かりやすかった方がスムーズだったかもしれない。
実際、工房で食事するまではそんな雰囲気でしたしね(ハンプニーが寝るまで寝ない、食べるまで食べない、と意地を張り続けるくだり)。
まあ、それはそれで何だかアイのキャラではないなあ、という印象もつきまとうんですれど。
何と言ったらいいのか、最初からキャラの行動原理とかアルゴリズムが独特で、だから整合性はあるけど普通の人とは違う動きをするといいますか。
このへんは不手際と言うより、作者独特の尖った感性によるものじゃないかなあという気がします。好きだからかなり贔屓目に見ていますが。
全体として構成や伏線は非常に巧みです。アイの生い立ち、ハンプニーとの出会い、徹底された墓守としての存在意義と肯定、父娘の邂逅、等々……。
ラストはとんでもない夢に向かって締め括るところで終わりですが、それは更なる残酷な旅路への出立でもあるのです。まあそれは次回の感想にでも。
二巻でも三巻でもそうですが、アイがあと二つ三つ成長したころならまだしも、十二の子供にこんだけ夢に走り出すのを徹底否定するのも酷いですよね。
ハンプニーがアイをいきなりボコボコにした挙げ句みっともなく命乞いさせる(これを描写せずさっさと説明で済ましたのは作者の良心なのでしょう……)シーンとかちょっとやり過ぎじゃねえのとか。
というか相手を救うためなら命も奪う! ハンプニーは確実にやり過ぎ。
殺しても死者は歩き出す訳ですが、彼はその後頭撃って焼いて灰にして埋めて、でも彼は墓守じゃないから相手を永眠させられないんですぜ。
あとヨーキのこと考えると、彼一人余計に殺しましたよね。まあヨーキのことだから、せめてアンナと一緒にとか言っちゃってハンプニーもそれを承諾したのかもしんない。
しっかし、この世界のゾンビって脳をやられると精神にもきっちり影響が出るので、灰になったら動くことも考えることも出来ないっぽいです。そうなると死ぬのとどう違いがあるのかな……。
ユリーの奥さんは一年以内で脳も腐りきってしまいましたが。オルタス(二巻)で死後の処置がどうのって少し出ていたから防腐処理は考えられているようですけれど。
世界が全部死者だけになったら、後はみんな朽ちるのを待つだけですよねえ、どれだけエンバーミングしてても。
アイが世界を救おうとするなら、墓守が人間に変わって子供を産めるようになるしかないのかもしれない、とちょっと思ったり。