アラン・ムーア(作), ブライアン・ボランド(画),『バットマン:キリングジョーク 完全版』

 しかし、そんな彼らを誰が責められますか? かように狂った世の中で…
 理性を保つなんて、まさに狂気の沙汰でしょうに!

バットマン:キリングジョーク 完全版 (ShoPro books)

バットマン:キリングジョーク 完全版 (ShoPro books)

 久しぶりにアメコミというか「コミック」らしい絵柄の作品に戻ってきたぜ。
 アーカムアサイラムも薄かった*1が、これも更に薄かった。1エピソードだけの単発作品だそうで、厚い表紙と相まって絵本のような印象だ(まあ表紙を見れば絵本とは決して間違えないが)。
 全46p、しかして内容は濃厚極まりないジョーカー、そしてバットマンの物語であります。
 大筋としては「ただの男がいかにして狂える犯罪王子となったのか?」というジョーカーのオリジンを描くもの。
 そうしたジョーカーの「過去」に、「我々の関係を殺し合いで終わらせたくないんだ」とバットマンが「未来」を求めて動き出し、両者が(またしても)絡むことになります。
 過去改ざんはお手の物のアメコミにあって、ジョーカーもその出自に何パターンかあったと思いますが、今回は化学工場の廃液に落ちて髪が緑に……という物が採用されてます。
 じゃあなんでそんな物に彼が落ちることになったというと……もちろん、見てのお楽しみ。
 ジョーカーのオリジンを納得するかどうかはまあ人それぞれですが、この作品上での表現力・構成力は抜群なので、受け入れるかどうかは置いておいて「一つのジョーカー誕生譚」として大いに楽しめること請け合い! 全編がこれぞジョーカーと言わんばかりの名台詞に満ちています。それを様々な百面相で発してくれるんだからもう最高ですね。
 ゴードン本部長は娘があんなことになった挙げ句、素っ裸で首輪付けられ引きずり回されるとゆーSMぷれいにつきあわされる羽目に。あの小人たちはかぶり物ですよね……?
 ジョーカーさんはどこから、あんなに愉快な手下たちを集めてくるんでしょうか。
 ことに38pの見せ物小屋ごっこは印象的で、狂気と正気の逆転した世界の価値観、ジョーカーの百面相など見所たっぷり。ここのシーンはお気に入りです。
「お前は何で笑わねえんだ?」は映画(ダークナイト)でもあったような?
 世の中狂ってるぜ! なんでみんな正気でいるんだい! と悪夢の遊園地で訴えかけるジョーカー。そのジョーカーを追い、助けようと手をさしのべるバットマン
 しかし、助けようとした彼もまた、ジョーカーと同じくクレイジーなのであって……。
 49pのやり取りは、ナイフに刺されるような感覚がある。ジョーカーが最後に言ったジョーク、二人のクレイジーは彼ら自身のことなのだね。
 しかしこんだけ深い関係にあったこの人らなのに、別の世界(キングダム・カム)になると、あっさり別の人にジョーカーが殺されているんだから、アメコミの懐は本当に広いものですw

*1:もちろん、物理的にだよ!