大西巷一『ダンス・マカブル 〜西洋暗黒小史〜』
わたしの父や兄は城から見える農民を銃の的にしたり
召使いを拷問にかけたりして遊ぶわ
憐れだと思うしわたしは楽しいとは思えないけど…よくあることでしょう?
- 作者: 大西巷一
- 出版社/メーカー: メディアファクトリー
- 発売日: 2010/11/22
- メディア: コミック
- 購入: 3人 クリック: 46回
- この商品を含むブログ (8件) を見る
久慈光久『狼の口』*1のような読み口を期待して購入したので、その点では期待はずれだったが、拷問漫画として悪くないか?
時代を変え場所を変えてのオムニバス集なのだが、Webで見られるアマチュア拷問小説をそのまんま漫画化したような雰囲気がある。全裸で180度開脚させられた女性が許しを請うコマとか。
拷問具の並ぶ表紙も、カバー下はその拷問具に乗せられた女性のイラストになっているこだわり仕様。歴史コミックス扱いですけど、ほとんど猟奇漫画じゃなかろか。
そういうわけで、SMを通り越して拷問・処刑で女性が責められまくる趣味の方以外にはおすすめ出来ない一品です。まあ、純粋に拷問についてちょっと知りたいという人にもいいかもしれません。毎回、丁寧に拷問の解説(どういう仕組みでどういうことしてどう苦しむか)がされているので。
ドラマとしては全体的に起伏が足りず、淡々としている印象があった。作中ではまあ色々起こっているんですが、歴史漫画という括りからなのかどうなのか、事務的な話運びだった感じ。
ファーストエピソード・ジャンヌ編は司教の思惑はともかく、ジャンヌのメンヘラっぽさ(神の声を否定されて叫びだし、直後に熱を出して倒れる)が突っ込まれなかったのが不満。
二つ目の暴君カリグラは、カリグラ当人の死亡が書かれずフェードアウトしたのが物足りない感じか。
しかし三つ目のスペイン異端審問になると、新米審問官のミゲルとトルケマダ総長の会話が面白くてなりません。あんなに澄んだ眼で、自分たちの正義を疑わず、相手を救うつもりで拷問に邁進していくエゴっぷりがヤバイ。あと鰐ペンチとか小道具細かいね。
異端審問編は猟奇趣味の性欲充足的な描写もだいぶ目立ってきたんですが、四つ目・鮮血の貴婦人編になると百合展開も挟まってきます。題材はもちろんバートリー婦人。
……ジャンヌとバートリーがいてジル・ド・レエはあぶれちまいましたね(まーあれも捏造説あるしなあ)。
それはそうとエルジケ可愛いよエルジケ*2。この作品でほとんど唯一萌えるキャラですよ。
「わたしの母なんてお腹もこーんなで おっぱいもだらーんて」のデフォルメとか他にはないですしね。まあ彼女がそれを言っていた浴室には、とんでもない秘密があったんですけど。
そんなエルジケも悲惨な末路をたどることに……。
しかし五つ目のエピソードにて物語は少し明るくなります。題材はなんとイエス・キリスト!
白人じゃなく、ちゃんと肌が褐色にされているのも驚きましたが、「人間」イエス/「神の子」イエスを書いている凄いエピソードでした。
しかしユダ憐れ。あれは首括りたくなる。
拷問人が鞭の説明をしてくれるのはいつものこととして、茨の冠にああいう解釈がつくとは。「人間を鞭打ったみてえだ」はなにげに深い台詞と思います。
十字架行について、金枝篇に記された「サカエア」という祭りを引き合いに出しているのも興味深いところ。孔雀王にもサカエアっぽい呪法があったような……。
まあ何のかんので、最後のこのエピソードでこの作品の評価があがりました。どれもこれも悲惨で後味の悪いエピソード連の中で、これだけ最後はいい話っぽくしめられていますしね。
でも1ってことは2も出す気のようで……うーん、そっちを買うかどうかは迷うところですね。あったら買っちゃいそうだけれど。