グラント・モリソン, デイブ・マッキーン,『バットマン:アーカム・アサイラム 完全版』

 私が病気だと? 鏡を見て物を言え! 貴様はどうなんだ

 圧巻の絵。キングダム・カムでもびっくりしたけれど、これは更にそれを超え、もはや絵画美術の域である。いや、誇張じゃなく、額に納まってる絵画を本に収めたんじゃないの、という印象。
 話は正直「それでいいの?」という感じではあるが、台詞回しや絵の迫力で、読んでて鬱になりそうな強烈な力があった。
 アーカムアサイラムバットマンの主要な舞台であるゴッサムの精神病院。精神を病んだ犯罪者が収容されているので、おなじみの面々が顔を出してくれる。
 トゥーフェイスが出っぱなから失禁しているのだが、映画ダークナイトの彼が念頭にあるので、見てて何か辛いものが……カードを捨てる所はちょっと嬉しくなりましたけど。
 この病院が出来るまでの歴史と、ジョーカーによる人質事件解決に乗り込んだバットマン、二つの時系列が交互に語られていく構成となっているが、どちらの物語も人を狂気に引きずり込もうとするような、陰鬱さと吸引力に満ちている。調子が悪いときに読まない方がいいだろう。
 というか実際ちょっと気分が……。
 税別2600円のほとんどはこの「絵」を見るだけでほとんど元は取れた感じ。フルカラーで、もはや「漫画」の絵とは言い難い作品が出版されるとは、アメコミとは凄い世界なのだなあ。
 それなりに写実的な登場人物の中、バットマンは専用の黒フキダシと影のような姿、ジョーカーは怪物のような姿(表紙にもなってる)で描かれ、特異さが強調されている。
 ジョーカーの台詞はフキダシすら無く、画面に直接金釘流の文字で書かれるので、読みづらいのが難点か……。