マーク・ウェイド, アレックス・ロス, 秋友克也, 依田光江『キングダム・カム 愛蔵版』
こんな未来が誇らしいもんか!
あんたが変わらなかったから… 俺が選ばれた
殺さないあんたより 殺す俺が選ばれた だからみんな死んだ
- 作者: マーク・ウェイド,アレックス・ロス,秋友克也,依田光江
- 出版社/メーカー: 小学館集英社プロダクション
- 発売日: 2010/10/30
- メディア: 単行本
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愛蔵版ということでラフスケッチなどのオマケがたくさんあるので、厚みが結構増していた。それと、絵がいわゆる「漫画」ではない。色塗りがイラストのそれでしたね、これはびっくりした。
カバーケースを取ると、いきなりでっかくスーパーマンの顔。その他多数のヒーローたちがフルカラーで描かれている。何かウォッチメンみたくシンプルな装丁を想像していたよ。
物語は、スーパーパワーを持っているくせに良識、黄金の精神を持たない超人類が増えたため、大混乱に陥っている近未来。スーパーマン=クラーク・ケント=カル・エルが引退したため、かつてのジャスティス・リーグも自分たちの担当地域だけガチガチに守って保守的になっている状態。
巷ではモラルのない新世代の「ヒーロー」たちが武力抗争を繰り返し、平気で無力な市民を巻き込む始末。ワンダーウーマンに説得されて、農夫をやっていたスーパーマンが復帰し、新世代たちを導こうとするが……。
ヒーローたちに訪れる未来の一可能性、として書かれた作品という認識なんだけれど、それぞれのディストピアっぷりは見ていて楽しい。フラッシュさん頑張りすぎ。
ゴッサムはバットマンが掌握しちまいましたが、まあ突き詰めればそうなるよな……。ロボにいちいち指示出していたあたり、まだ高性能な人工知能は出来てないようだけど。
冒頭で黙示録の一節が引用され、以後も繰り返し登場するなど、全体的に世界の終末、破滅といった暗い雰囲気をあおり立てている。でありながら、クライマックスを過ぎるとあれよあれよという間に大団円になってズッコケそうになはなったが、まあクラークとダイアナの前途は祝福したいところだ。
しかし神父が天使?(オマケ部分でその正体に言及されている)に導かれ、時空を超えて傍観する語り手となる、という妙な構成がいまいち不要に感じられるのはどうだろう。
また、とにかくキャラクターが膨大で、ある程度アメコミについて精通していないと完全に理解するのは難しい作品でもある。解説はついているんだけれどね。ぞろぞろとキャラが出てきて、名前は分かっても顔でピンとこない人たちがなんぼかいた……。
たとえばキャプテン・マーベルに関しては、マーベル社のそれしか知らないので混乱するばかりなのであった。何か申し訳ない(キャプテンマーベルってアメコミに三人ぐらいいるし……)。
ジョーカーがあっさり死んだことになってて、しかもさらりとそれが流されているのは、泣いたらいいのか笑ったらいいのか。ハーレクイーンが墓でも作ってんのかしら。
各話ごとの扉にも、多数のヒーローが集結している。名前との対応表があって助かったが、ブッダとか凄いのいるんだなあ。トーキョー・ローズってのが某春麗に似ているんだがどうなのか。
ペッパーガードのモデルにした日本の巨大ロボってなんだろう……サンライズ系っぽいけれど。
それとジャパニーズな新世代ヒーローもいたんですが、そのチョイスが歌舞伎と鎧武者なのがいかにもで笑ってしまった。教導収容所グラッグにて、各国の新世代たちが母国語でわめいているシーンで、ちゃんと彼らも日本語でしゃべっているw
情報量が膨大なので、何度も読みたくなる作品。もっとアメコミを知れば知るほど、きっとこの作品は面白くなるのであろう。私はちょっと手を出す順番を間違えたのかもしれない。
アメコミ初心者には勧めづらい作品である……。思い入れのあるバットマンのパートはとても楽しかったので、まあそういうことなのだなあ。