オースン・スコット・カード, 冬川亘『ソングマスター』

……この城はすでに一万六千年の歳月を経ていたのであり、ドームができてからでもすでに一万年がたっていたのだ。
「ぼくらはとても年寄りなんだな」アンセットは言った。
 ジョジフがうなずいた。「これだけの長いあいだ、ぼくたちはなに一つ忘れていなかった。そして、なに一つ学ばなかったのさ」

 カード三冊目。初版がちょうど私の生まれた年で、これはその復刊版。またエンダー並に分厚い本やねーと思っていたら、中身もエンダーのそれに近かったかな。
 書かれたのは『エンダーのゲーム』より前なんだそうですが、ある天才の人生を一冊かけて描き出したって点が共通している。エンダーズシャドウ読まなきゃ。
 あらすじを読むと、宇宙世紀を舞台に独裁者・皇帝ミカルと彼を虜にする天才歌手(ソングバード)の少年アンセットの物語……と見えますが、物語はそれだけにとどまりません。
 全編五百ページほどあるんですが、アンセットが登場し、成長し、訓練され、試練を乗り越え、ミカルの所に行くまで百数十ページ。
 その間の密度も結構高かったんですが、ミカルの所に行ってからもまた状況が二転三転……。というかページが半分もいかないところでミカルが死ぬとは思わんかったわ!
 エピソードではキャレン(キャ=キャ)が好きです。初登場時のアンセットとのやりとりもそうですが、その後のジョジフとの一連の物語。職場での冷遇、密告、その結末は衝撃でした。
 彼女はジョジフと幸せになって欲しかったなあ……。
 次点ではうなぎのおばあちゃんも衝撃でした。あの結末は予想できないでもなかったけど、処理人の態度とかアンセットの反応とかも含めて。
 ただキャレンのエピソードがあった分、「いたち」の終わりがあっさりだったのは残念。アレも色々ありそうなキャラクターだったのに。死に方は壮絶っちゃ壮絶だったんですがー。
 まあそういう淡々としたやり方はこの作品の特徴でもあるからいいか?
 全体的にとても淡泊なんですよね。でも読者の想像力や感受性を刺激する躍動感がある。そこが、自ら人生の締めくくりを選んだエステやアンセットの姿勢とも一貫して感じられる。