六塚光『ペンギン・サマー』

「博士、なんでこのロボットにはサイドミラーがないんだ!」
「あるわけないでしょ! 死角に入った相手は全て轢き殺すっていう設計思想なんだから!」

ペンギン・サマー (一迅社文庫)

ペンギン・サマー (一迅社文庫)

 六塚光といえば、デビュー作からのシリーズ『タマラセ』以外ほとんど読んでないのですが、SFを書いたということで手を付けてみた一冊。確か去年に。
 随分積んでいましたが、まあいつまでも放っておくのも、とやっとこさっとこ手を出した次第。うむ、夏休みに読むに相応しい内容か。
 主人公がヒロインに誘われ、地元の伝承に残る『クビナシ様』を探しに山へ分け入る……という始まりですが、山歩き自体は早々に終わりを告げ、あとはボイスレコーダーや手記などの記録によって時系列が前後していきます。
 タマラセの時からそうですが、六塚さんは基本ミステリの構造で話を書いている印象でして、それがこの単発長編でも炸裂したようです。
 タマラセは毎回「実はこうだったんだよ!」というどんでん返し、そこへ至る伏線の丁寧さ、自分より強い相手に如何に知略を尽くして勝つかという点で楽しませてくれた快作だったものです。
 バナナの玉子とか、あかりの髪とか、細かい所から大事なところまで伏線みっちり。最後のほうから逆算して作っていったんだなというお手本のよう。
 最初の70pぐらいは謎と前提が提示されるのでややノれないが、三章目、主人公の日記で「人語を解するサイボーグペンギン」が出てくるあたりで、やっとエンジンがかかってくる。
 その後もボイスレコーダーの記憶やWebの掲載文、なぜか脚本形式の作戦会議など様々な視点で同じ時間軸が語られ、パズルのピースのように何が起きていたのかが組み上がっていく。
 作戦会議編(五章)あたりでそれまでの色んな怪事件の謎、そして物語の中心となるクビナシ様伝説の概要がだいたい分かってくる作りです。
 あとは、まだ漠然としている自分の想像がはたしてどこまで当たっているかという「答え合わせ」のために読む感が強い。それが牽引力でもありますが。
 ヒロイン・あかりのキャラクターや「首領」と「博士」のアホ具合など、軽いキャラクターで彩られていますが、少しずつ謎が解けて「あれはああいうことか!」という快感が得られます。
 赤面党が仮面つけていた理由は、ちょっとナウシカ思い出すなあ。