小説『アンチ・マジカル』&映画『ウォッチメン』(追記)
原作コミックは見ていないのですが、ようやくウォッチメンDVDも見たので併せて感想を。
伊藤ヒロ『アンチ・マジカル 〜魔法少女禁止法〜』
この二人を笑い者にすると言うなら、自分たちは?
一〇年前フリルの少女たちに救われた我々の命は、一体どれ程軽くなる?
- 作者: 伊藤ヒロ,kashmir
- 出版社/メーカー: 一迅社
- 発売日: 2010/07/17
- メディア: 文庫
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ウォッチメンはWikipedia上で詳細な粗筋とキャラクターが確認出来るんですが、笑えるぐらいストーリーがウォッチメンなぞっています。
具体的にはロールシャッハが収監されたあたりからが分岐。ウォッチメンでは刑務所で暴動が起こり、ロールシャッハは仲間と共に脱獄しますが、こちらは……。
落ちは違う物になっていますが、マンハッタン=プリンセスが帰還していないことや、終わり方からすると続編が出るような作りになっていますね。
魔法少女物のパロということでギャグやコメディの明るいノリを想像されがちですが、のっけから魔法少女(二四歳)が悪党の指を折ったりするダークなテンション。
もう一つのパロ元がウォッチメンだから暗いのは当然と言えば当然か。「現実にヒーローがいたら」が「現実に魔法少女がいたら」ということで、その闇に光を当てた感じ?
魔法少女を第一〜第三世代に分け、魔法少女アニメの位置づけを「魔法少女たちの活躍を追ったドキュメンタリー番組」に、オモチャ会社が彼女らと協力して武器を開発……などなど、すりあわせの設定も楽しい。キャラクターのほとんどに元ネタが分かるし、台詞にも歌詞などの小ネタが挟まれている。キャラの名前も声優とかからですね。
以下に、だいたいの登場人物=魔法少女の元ネタ=ウォッチメンでの元ネタをまとめてみました。
おしゃ天使スウィ〜ト☆ベリ〜(赤石苺子)/魔法のスウィ〜ト☆おしゃれ天使
=愛天使伝説ウェディングピーチ=ロールシャッハ(ウォルター・ジョゼフ・コバックス)
キラキラアクア!(水城宇美)/魔法のアイドル戦士キラキラスターズ!
=セーラーマーキュリー/美少女戦士セーラームーン=オジマンディアス(エイドリアン・ヴェイト)
花の騎士ハニーゴールド(金城マリー*2)
=キューティーハニー*3=コメディアン(エドワード・モーガン・ブレイク)
キラキラジュエル!/エターナル・ブリリアント・プリンセス(星城しずく)
=セーラームーン、ネオ・クイーン・セレニティ=Dr.マンハッタン(ジョナサン・オスターマン)
空飛ぶダックさん・DE・ニコルソン(白鳥まひる)
=とんでぶーりん=モスマン
御堂シーナ*4/幻想剣士スターレットガールズ
=獅堂光/魔法剣士レイアース=ホリス・メイソン?(自伝を出版していることから)
魔法少女マジかるウサミーSOS(宇佐美美々)
=ナースエンジェルりりかSOS=初代シルクスペクター+@
ホーリー伝説かぐや=新白雪姫伝説プリーティア
魔法怪盗アルセーヌ・キャット=怪盗セイント・テール
ウォッチメンはアメリカの現代史とか正義の象徴とか絡めた話だったんですが、パロ材料が魔法少女なので、この作品がそうはならなかったのは良かったんじゃないかな。
範囲がだいたいオタク史とか少年少女の自意識とゆー実にラノベ的な内容なのもグッド。
ただ、作者がエロゲのライターさんということでか、サービスシーン的な描写が気に食わない面もある。ボールギャグ噛まされた女子高生が腹殴られて「ひんぎいいい!」とかね。
もっともらしい理由はついているけど、全裸の十三歳が革手錠で拘束とかまあそういうの。しかもどっちも挿絵まで入れてるし。悲鳴の書き方が下手なのも尚更だ……。
(一ページ目から三行ぐらい使った悲鳴が出るのは頭を抱えたが、これは私のラノベ耐性が低下している証拠なのかもしれない)あとヒロインがバーカバーカ連呼しすぎて頭悪く見えるのもなあ。
正直、この作品のキャラ単体にはあまり魅力を感じませんでした。この作品のオリジナル要素である魔法女装子・サクラ(佐倉慎壱)はベリーに憧れる男の娘なのですが……。
サクラも、彼に惚れている宇佐美奈々(美々の妹)も、ヘタレ主人公とツンデレ系ヒロインのテンプレをなぞっている感じでどうにも。可哀想なベリー発言に地の文で無垢うんぬん言われていたのも違和感が。
どういうキャラなのかという方向性は分かりやすかったんですが、それが好ましいかどうかはまた別問題なわけで。
語り手は基本サクラ視点ですが、主役を張っているのはどう見てもベリー。だけあって、彼女は呵責無きクライムファイターとして良い感じのキャラになっています。
ただ、ロールシャッハのパロディ以上の存在とは言い難いのもまた問題か。ロールシャッハにとっての「犬に食われた少女」が、この話ではファンの変態に強姦された魔法少女の事件に入れ替えられていて、でもそれだけ。ベリー自身の人間としての深みが足りてないんじゃない? と。
ロールシャッハをそのまま魔法少女にしたらこうなる、って言うほどではないですが、彼を真似た所で終わってしまっている感じが強い。魔法少女の特性による差異があるぐらいか。
豆の缶詰二つも食っていたロールシャッハに比べると、ツナ缶+チョコバーというベリーの食事はまだ美味しそうでしたけど*5。
後書きで作者は編集者との会話で「ウォッチメン知りません似てたとしても偶然です映画なんて観てません」という白々しいアリバイ作りは笑って良い物かどうか悩むところ。
でも普段エロゲーで書けない八歳とか小学生がいっぱい書けて嬉しかったです、とゆー文はどうなのだろう。超不死身なので怪力で殴られ続けて苦悶する男の娘とかな。たぶんこのライターの書いたエロゲは自分的に受け付けない気がする。生理的に嫌。
それはそうと、「魔法少女の攻撃手段はビームである」「だがそんなもの人間の犯罪者にくらわしたら蒸発してしまう」「よって強化された身体能力を用い、素手で戦う」のですが。
大規模な交通事故に遭う=魔法少女に右フックで殴られる、が同等の扱いになっているあたりに大笑い。
色々文句は言ったけれど、魔法少女物への愛とウォッチメンへのリスペクトが感じられる作品だったかと思います。ラストはウォッチメンとは異なる形になったので、ただのパロディから離れる続編でこそ真価を問われる作品でしょう。
次巻に期待!!
『ウォッチメン』
ウォッチメン スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]
- 出版社/メーカー: パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン
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- メディア: DVD
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六種類の正義観を持つキャラクター・妥協しないロールシャッハ、青臭いナイトオウル二世、時代のパロディコメディアン、大事の前の小事オジマンディアス、超越しちゃったDr.マンハッタン、英才教育を受けた二代目シルクスペクター。
かつてアメリカは第二次世界大戦で、士気高揚のプロパガンダとしてアメリカンヒーローを用いました。ディズニーもそれに噛んでたもんです(ドナルドダックとか)。
アメリカ正義の象徴的存在、そんなヒーローたちが実在したら? という問いかけを、架空の冷戦期といういかにもな時代を舞台にした作品。
引退したスーパーヒーローたちの話といえばファミリー作品Mr.インクレディブルが先行していますが、こちらは超人的なキャラクターたちが、普通の家庭ドラマ的な話を繰り広げるおかしみがありました。
スーパーパワーを持っているけれど、当人たちは恋や学校や夫婦仲に悩み、復活した巨大な悪との戦いによって家族との絆を取り戻す、という。
時代設定をインクレディブルと同じようなものにしなかったのは結構大事なポイントだったよなあなんて思う(まあ原作はインクレディブルよりずっと前にあるので、冷戦期という舞台そのものとテーマに親和性があったんでしょう)。
オープニングがそのままヒーローの居る現代史という流れになっていて、記念写真撮るミニッツメンとかある意味滑稽でもありました。
話の詳しい粗筋がWikipediaで全部読めてしまうあたりが酷い。まあ知ってて見ても充分面白いんですけどね。以下各キャラごとに感想。
ロールシャッハ
本作の主人公……だと思うのだが、正確には「主人公の一人」か。DVDパッケージの立ち位置が何か横だし。空気穴と覗き穴の存在がかなり謎なマスクを使用。
特典映像では、物理考証のため呼ばれた学者が模様が流動するロールシャッハマスクについて解説。一応、現実でも製作は可能ってことでいいのかな?
彼が正体を暴かれるシーンでは伏線がきっちり張っていたのが良い感じ(こいつ何者? という印象的なモブがいたが、マスクを剥がされた時にそのモブが彼だったと分かる)。
彼をモデルとしたベリーがそうだったように、呵責無きクライムファイター。世界が滅ぼうとも妥協しない! その姿勢はある意味狂気であり眩しくもある。
たぶんあの結末も含めて愛されるキャラクター。傲慢さが鼻について感じられる面もあったが、犯罪者たちにとことん容赦しない姿勢に喝采を浴びせたくなる男だった。
ナイトオウル二世
原作と違って初代は最初に少し出てきただけでした。惨殺されなくて良かった……か? 映画版ではどうもインポの設定はないようだ。
フクロウをモチーフにしたコスチュームは、どことなくバットマンのパロディを思わせる。
普段の姿はちょいとヘタレなあんちゃんという感じで、全体的に育ちの良さやお人好しさ、真面目さを漂わせている。でもしっかりやることはやってた。
特典映像で学者にも突っ込まれていたが、あの飛行艇でNYから南極まで飛んでいくのは無茶がありすぎた。
Dr.マンハッタン
他のヒーローが身体的に強いクライムファイターにとどまっている中、一人「波動関数の収束を操る」という全能に近いスーパーパワーを揮う男。
テレポート、分身、バリア、念動力、巨大化、不老不死。作中では神にも等しい存在であり、当人は否定する物の実質同じようなものである。
巨大な姿でベトコンを追い掛ける図はシュールであり、「スーパーヒーローの実在なんて悪いジョーク」という本作のテーマを表している。
作中もっともフルモンティな格好の人でもある(二番手はダンことナイトオウル二世。尻だけだけどな)。最初はビキニばかりだったのに、途中からモロ出ししまくりでした。
オジマンディアス
やっていたことは悪役のそれだったけれど、多くのヒーロー達が望んでいた結果を出した唯一の人物でもある。でも一方、「王の中の王オジマンディアス」なんて彫った像を用意したりするあたり、かなりナルシー入っている。ブバスティスは活躍がなくて残念。
あまり突っ込むとネタバレになるので(Wikipedia見ると分かっちゃうけどな!)、書くことがない……。