山口ミコト『死神様に最期のお願いを』1
――あんたを確実に地獄に落とすためよ この人殺し!
- 作者: 山口ミコト
- 出版社/メーカー: スクウェア・エニックス
- 発売日: 2010/03/20
- メディア: コミック
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間違ってもハートフルなヒューマンストーリーではありません。むしろサスペンスフルでミステリー、物の裏を実はこうなんじゃと悪い想像をするとだいたい正解する展開が続く。
新人ということで画力はそこそこ、ただ話の整合性というか設定に気になる部分が多かった。
何も考えず一読したら面白かったんだけど、かすかな違和感が残ってて、読み返したらボロボロ粗が出てきてアチャーって感じ。
主人公・静は自分の家族を惨殺した殺人犯として死刑目前。そこへやって来た死神は、彼に殺されたという妹・響だった。彼女は静への復讐を目論んでおり、それが引用文の台詞に繋がる。
兄の担当を同僚から無理やり譲ってもらったため、響はその埋め合わせの仕事をするのだけれど――なぜかこの時、静も一緒に連れて行く。静は拘置所にいるから別に逃げないのでは?
特に理由も示されず、何かそういうノリ、として進むから困る。読み返したけど連れて行く必然性は見つからず、ただ話の都合しか発見できなかった。
あと、死神が権限でかいわりに弱いのも気になる所。ネタバレになるが、静は響が「最大の罰」を願ったから殺人犯として異例のスピードで死刑が決定されている。日本の司法制度やら何やらねじ曲がっている気がするんだが、最期の願いならそれぐらいのことは出来るらしい。
が、静の殺人は物語の核となる謎で、一巻を読んだ限りでは彼は犯人ではない。にも関わらず最大の罰=殺人犯として罰されるというのは、超常的力を行使している割に人間的なミスだなあと思う。
心臓病の人間を一瞬で健康体にしたりとその力は強大なのに、それを制御する側はどうも「人間」の域を出ていない感がえれー恐ろしい世界設定。
一話の惨劇にしても、事前調査で願いを叶えるべき対象ってもっと精査しないんですかね。
死者の魂が天国へ行くも地獄へ行くも担当した死神の裁量次第なのに、当の死神は現実の警察とそう変わらない調査力ぐらいしか無い。誤認逮捕並に、間違いで地獄送りとかしそうな死神どもです。
読み切り版の方が、もっと細かく対象の人生知っていたのになあ……。
あと余談ですが、麻美の家へは普通にチャイム鳴らして入ったのは何なんだろう……死神なら静の時と同じく、異次元の穴っぽいものから出てきたらいいんじゃないですかね。
それと、響は自分が死んだ時のことに拘って暴走を始めるんですが、なんで死んでそう時間も経ってない人が、生前の記憶も持ったまま死神になるのか。
今の所女性しか出てきませんが、あの世的に重要な仕事だろうに、死者が軽く死神になれたらおかしいでしょうし……。記憶を消すのは出来るけれど、それはしたくないというニュアンスで語られているのも気になる。温情主義と言えばそうですが、その弊害がめっちゃ出てるという。
少女漫画だけど、闇の末裔って作品だと、生前の記憶を取り払った死者が死神をやっていた話だったかと思います。自分の生前や死に方にきちんと整理がついているなら問題ないんでしょうけれど、響は未練が色々残っているわけで、それを死神という職にそもそも就けるべきではなかったのでは?
とまあ、読んでいて設定の根幹から気になってしまう点が多い漫画でした。ただまあ、その分話に勢いはあるし、割と内容は濃い。
来月に二巻が出るんで、一応そっちもチェックしてみてから続刊を購入するか検討しようと思います。
ちなみにオンラインで読み切り版が読めますが、本編と真逆のハートフルストーリーなので、本書の参考になることは皆無。むしろ余計な先入観がつくので、読了後に試すが吉です。