小野洋一郎『全能のノア』1〜3(完結)
違うわ 救世主は彼よ
王生(いくるみ)ノア 他の誰でもないわ!
- 作者: 小野洋一郎
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で、バンチ休刊のニュースを見て「どんなの連載されてたっけなあ」と調べたら、打ち切り漫画である本作が面白そうなので買ってみた次第。
ある日突然東京都民百万人が記憶喪失に! 伝染病その他諸々を考慮して地下に隔離された彼らは健常者(アダルト)に対してキッズと呼ばれ迫害を受けていた。
主人公・王生ノアもまた、そんなキッズの一人。彼は大量記憶喪失事件が人為的なものであること、彼こそがその原因を作った存在であることを知らされるが……。
とまあ、のっけから設定や方向性がバッチシフレンチカンカンにキマっている、良い感じにブレない作品です。いやおフランスは関係ないですけど。
正しくエンタメしているこの構造は実に見習いたい。
が、それだけに落ちが色々と残念な作品。打ち切りだからこういう纏め方をしたのか、それともあと一話ぐらい足りないだけで、元からこういう予定だったのか。
ラストまでがーっと読ませるような、勢いある作品です。アクションも多く、どんどん状況はデンジャランスになっていく。
主人公のノアも好感が持てますね。天才少年が抑圧からの解放を目指して革命を起こす! という粗筋はギアスっぽさを彷彿とさせつつも、独自の方向へ振り切れてくれた。
ただ、話がやや荒っぽく、伏線や布石が足りなく感じられる箇所がちらほら。
常磐の姉とか初出が唐突な気がしたし、フクがしゃべらないのがラスト重要だったのにそれまでの過程で印象が薄かった。あと常磐の顔が一巻とかあまり安定しなくて誰? になることもしばしば。画力はあるんですけどねえ。
それに、緋神子(ひみこ)のことがよく分かりませんでした。
兄の非道を止めるべく、二重スパイしてたってことなんでしょうが、彼とは利用し合う関係ってのはブラフで、婚約者ってのは本当だったってこと? 指輪が最後のパーツになっていたからそれでいいんだろうけれど、断言されているシーンが特にないような。
まあそれはともかく、ノアはいい主人公でした。無血革命を謳いつつ「自分の血ぐらいノーカンでいいだろ」と自ら傷つくことも厭わない。面倒見ている子どもたちや、学校の友人を救うため迷わず敵地へ突っ込んでいける、実に熱い男です。
のだが……ラストで記憶が戻ったら、幼稚な独裁者キャラになってしまいました。これが何より残念でならない。だいたい人類再教育ってどんだけ人手がいるのww
単なる記憶喪失だけじゃなく、記憶障害が進行して幼児退行や認知症も出るみたいですし。そうなるとどうしても介護が必要。少数で大量のキッズを管理なんて出来るの?
真ノアには友達もサンプルに過ぎなかったのかと思いきや、サチとフクには愛情が残っていたようなのは救いか? それがまた後味の悪さを増加させるんですが。
こういうバッドエンドも嫌いじゃないんだけれど、小梅たちの過去が悲惨すぎたり、主人公のキャラがぶっ壊れてしまったりしたのがケチついてしまった感じ。
全体としてはわりかし良いエンターティメントだったと思うんですけれど。
あ、でも特効薬で肉食ゾンビみたいなのが出来るシーンは笑いました。
他にもキッズを売り飛ばすとかおいちょっとマテという*1。まあ火器の規制が厳しくなって、公権力が帯刀するとゆー豪快な世界観ですし、それもアリか。
とりあえずこの作者さんには今後注目していきたいと思います。残念だけど面白かった。
*1:署長がノアについて言った『出荷』がよく分からなかったけど、それと関係あるのかなあ。