イシデ電『私という猫』

 もしも私が猫だったらば とっくに死んでいる。

私という猫 (Birz extra)

私という猫 (Birz extra)

 野良猫サバイバルな本。猫目線で、猫たちの日常をシビアに描く。といっても、意地の悪い人間に追いかけられるとか、仲間が保健所に連れて行かれただとか、トラブル続出のストーリー展開にはならない。
 最初の方のエピソードで仔猫が轢き殺されたりとショッキングな場面はあるが、露悪的ではなく淡々としたカラーの作品。
 ただまあ、話としてはどうしてもメルヘンに偏ってしまうのは仕方がない所か。
 全体のセンスはとても素晴らしくて、筆ペンで作画された画面といい、猫の「らしさ」というものが随所に現れてます。飼い猫が野良の子供を見て「ケモノくさ!!」と驚いたり、子供をぽこぽこ産んだり……。
 前半はそうした猫社会の概要やキャラ紹介、後半からは下町人情物語風に、それまで登場した猫らによるドラマが繰り広げられる。人間というものは、主人公の「おばちゃん」猫が外側から見るだけの存在。
 ただまあ、一晩中吠えたのくだりで「それ犬ちゃうんか」と思ったり、土管を体重と遠心力の利用で倒しちゃう頭良すぎな行動に「ありえねー!」となるなど、若干のツッコミ処はあります。
 というか最後らへんにこうした擬人化が極まって、もうちょっとシビアな話かと思いきやメルヘンへと足を踏み外したのか……と苦く思わざるを得ない。
 いい本のはずなんだけれど、ここで唇を噛む私は損をしてる気分です。