太田モアレ『鉄風』1〜2

 頑張って 一生懸命 精一杯 努力しなきゃ

鉄風 1 (アフタヌーンKC)

鉄風 1 (アフタヌーンKC)

鉄風 2 (アフタヌーンKC)

鉄風 2 (アフタヌーンKC)

 タイトルとロゴからして、ははーん格闘バトル漫画かーと思ったら、どっこい真っ当なスポ根格闘漫画で参った。作者はいわく、懐かしの青春熱血漫画だそうで、まったくおっしゃるとおり。
 ただし主人公・石堂夏央は、鼻血流しながら「絶対許さない」*1とかのたまう超非リア充っ子。
 天才とも呼べるほどの才能ゆえ、孤独と倦怠を感じていた主人公が、嫉妬で狩りたくなるような超リア充っ子を見つけて総合格闘技の世界へ入っていく――というのが大まかなストーリー。
 一応、「世界最強の女性を決める」大会G−girl. なんてのもありますけど、二巻現在では背景設定の隅っこという感じ。周囲のキャラは次々参戦を表明していますが、主人公はそうでもないですし。
 まとにかく、登場する女の子(おもに女子高生)が可愛いです。これ重要。
 あからさまな萌え絵ではなく、むしろページを開いて「あれ、表紙で思ったほど巧くねえなあ」とか失礼なことを思った絵柄だが、一度格闘シーンに入ればその迫力と鋭さにズギューン(語彙が貧相なので擬音で代用)。
 女子高生が蹴り一つで、体重80kgはある成人男性を浮かす。
 そんなやっちまった級の絵空事が、画としてとても爽快に(そしてエゲツなく)描かれている。ありえねーとゲラゲラ笑うよりも、おおっ! と拳を握りしめたくなる感じだ。
 可愛い顔した女子高生たちが、可愛い顔のまま殴り合い。萌え観点からすると倒錯した嗜好とも合致しそうですが、中身はひたすらストイックな戦士ばかり。なんだけれど、とにかく華がある。
 ヒールな主人公も何だかんだでしっかり青春してるし、格闘やってない時の夏央は「普通の女の子」してるんですよね。待ち合わせに遅刻されてスネちゃったり、友達と弁当食べたり、何だこれはギャップ萌えか。
 主人公が素直に好きになれる作品はいいですね。「当てないのォ?」の凶悪顔といい、普通の漫画なら悪役ライバルキャラって造形ながら、あちこち可愛い。
 兄や幼馴染みとの間に何かあったらしい過去とか、「努力がしたいの」発言とか、実に応援したくなる。唯一の友人から「ナッちゃんって性格悪いよねー」と笑顔で言われて凹んだりもしますしね。
 友人氏いわくの「真っ直ぐに性格悪い」は実に当を得た評。
 ただまあ、主人公が打撃屋(ストライカー)らしいのに筋力が足りないだとか、寝技・組技系に弱いのでそれを出されるとすぐやられちゃうとか、それに対抗するため主人公もそっち系のトレーニングを積むとかで、夏央無双が見れるのが最初のあたりだけなのは残念。もっと殴り合いが見たいんだぜー。
 他にも、パカッと大口開ける猫キャラの真奈美さん(試合に負けての大泣きが、また良い顔だった)や、夏央にあっさり負けて畜生とひしりあげる我如古さん(格闘シーンが省略され、次の回で描写された所で、ちょっとヒリングとリヴァイヴ思い出した…)、天真爛漫キャラだが戦いでは容赦ないラテン少女リンジィ、女と言われないとちょっと気づけない恐れすらあるほど男前の早苗さんなどなど、色んな格闘美少女がよりどりみどりです(真奈美さん25だけどな)。
 そうした美少女たちに混じって、美人とは言い難い「突き出しの強い顔(夏央談)」の女性格闘家が出てくるのもいい。紺谷可鈴さん、般若面の演出といい試合のシーンで魅せてくれる。
 その一方で主人公と同質の暗さも併せ持っていて、この人凄い好きだわあ。
 作者はこれが初単行本とのことですが、新人と呼ぶには明らかに描き慣れている感じなんですよね。話の構成に無駄がなく、一度登場したキャラが後々ちゃんと絡んできたり、何か堅実。

*1:いや絶対とは言ってませんが