ののやまさき, 土屋計『エンマ』1〜5巻
- 作者: ののやまさき,土屋計
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2008/08/04
- メディア: コミック
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- 作者: ののやまさき,土屋計
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2009/09/04
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彼女の任務は大量死の元凶となる人物に接触し、事態を未然に防ぐこと。止められないその時は、相手の全身から骨を抜いて殺してでも……。
と、冥府魔道な一話完結式、オムニバスなコミックスです。
死者が裁ききれないとかおい転生はどうなったと粗筋聞いた時点で突っ込んでましたが、転生しててもなお間に合わないらしい。というか転生以前の問題でしたね。
設定が設定なだけに、どの話も哀しいやら暗いやら報われないやらなのですが、無邪気なエンマの存在が清涼剤になって、少年漫画としてのエンタメ性に踏みとどまっています。
一回一回の話は、「裁かれる対象」と、その対象を想う人間・または対象に想われている人間がセットで存在しており、彼ら同士の葛藤や確執、秘密などが主な内容になっている。
読者が思わず裁かれる人に肩入れしたくなった頃、スパーンとエンマちゃんが骨を抜いてしまうのでした……。抜かないこともあるけど。
人間ではなく紙人形のエンマは、親子とか情愛などの人間性をもちあわせません(厠も必要ないらしい)。
が、そのような彼女が「外側の視点」として人の営みを見ることで、かえって人間性を浮き彫りにする作風でしょうか。まあお約束通り、エンマ自身もだんだんと影響されて、人間らしくなっていくんですけれど。
そうしたエンマの変化や可愛さが、暗い話に華を添えていい感じです。
一巻を買った時に恒例行事として単行本カバーをめくったんですが、そこにいたのは「エンマをよろしくお願いします!」と、彼女に頭を下げさせている閻魔王。なんという親子w
地獄や閻魔王について考えるときにふと目にして、そのまま五冊一気に買い込んだけれど、なかなかの当たりですわ。
追記。
後になって考えたら、そもそもの設定ってどうなんでしょう。死者を裁ききれなくなったからエンマを遣わしたそうですが、人間って生きてればやがて死にますよね。
一気に大量の死者が押し寄せたら困るんでしょうけれど、明らかにあの世とこの世の時間は流れが違っていますし。単に死亡時期を分散させたいだけなのか、人間にちゃんと寿命を全うさせたいのか。
閻魔王が地蔵菩薩の行動に共感していたところからすると、後者なんですかね。紙人形使ってるのもあの人だけって言われてるし。
一巻
私は… 三人で暮らすわ
エンマは時代も国も限定せず、あらゆる時点へ現れます。さすが冥府、地球とは時間の流れが違う。
ちうわけで、日本の戦国時代に、中世ヨーロッパ、はてはかぐや姫や切り裂きジャックといった有名処まで物語の舞台となるのでありました。
かぐや姫がバートリーやってたり(血液風呂)したのはまだしも、殿中で刃物振り回すのはどうかと思いましたがw 種類は様々なれど、基本は人と人の(歪んだ)愛情の物語なんですよね。
あと、エンマは無感情というわけではなく、一話から結構感情豊かな所を見せます。鬼政にあやまれ! と怒ったり「ひとりもいるようにはみえんなあ」と嘲るような顔をしたり。
人間らしいといえばらしいんですが、それでも人間のように生まれてきた訳ではないので、色々と違う。
それはそうと、幼妻・雨茶姫(ななさい)が可愛すぎる。
二巻
エンマ!! お前の罪も許してやらァ!!!
最初の話には死病に罹り感染源となってします少年が裁きの対象。
なんですが……この子も結構悪いことしてるし、一応罪人なんですよね。友情物語は良かったんだけれど、世界観的にあの子も地獄に堕ちていそうなのがなんとも。でも、「一緒に逃げよう」と銃を取るラルフとか素敵。
しかし限定空間の時間を進めるとか、さらっとエンマ凄いことしてる。
二本目の「媚びないリリス」は変化球が入ってきてました。ジェセル将軍って注文のうるさいマゾじゃね?
三本目のワヤンはいい奴というか……思い込みの激しい奴なだけという気が(作者さんは気に入っているようですが)。でもエンマを神様神様言ってなつく姿は微笑ましい。花と蝶のシーンとか綺麗だし。
族長アーベルは、戦っている理由は予想通りだったけれど、エルナが激しくツンデレしてたのは読めなかったw
三巻
来るがいい!! 太陽の手先め!!
ニムロデとシャマシュはいい話になりそうだったのに、肝心な所で転けた気がする……。塔を登ったシャマシュの心意気はいいんだけど、(バベルの)塔建設の理由を聞いた後の反応がちょっと。
思わずじーんと来るのはいいとしても、奴隷が酷使されているシーンにショック受けてたのを忘れたのかおめーは! やはりファザコンだったか……という。
今の所、このシリーズで裁かれてきた人たちでは荊軻が一番好きです。痛そうな武器の仕込み方とか、怖い顔とか、無愛想だしなつかれてないけど子供が可愛かったりとか。
それと、エンマにどこから来たのかと聞いて「地獄から」の意味を勘違いしている所とか。あの時代に照らし合わせた常識的には間違ってないだろう解釈なんですけれどねw
それと、あの孤児院って絵面だと数十人規模にしか見えないんですが、独り立ちした子や死んだ子もカウントされているんでしょうねー。
この巻では最後に未来の話も出ていますが、以後の作品は過去ばかりなので珍しいエピソード。
四巻
悪魔(お前)を殺してでも生きてやる!!!!
今回の一本目は、今までと違って嫌な後味の作品でしたね。しかし骨が残るシステムって、閻魔王がサブルーチン作って自動化でもしてるんだろうか……。
この巻からは、ナユタというエンマと対立するキャラが登場。
最初女の子と思ったら男とは……チッ。なんか人間なんて全部ほろんじゃえーといまいち言っていることが幼稚でしたが、後で分かる正体からしても仕方ないのかもしんない。
それよりこの巻は、三本目「極点のスコールズ」が白眉。イギリスの南極探検隊が題材なのですが、お約束通り次々倒れてゆく隊員たちの悲壮感とかね……。こういう冒険物って小学生のころよく読んだっけな。
最後の話のシバルバーは、やたら強すぎるんであれもナユタの差し金かと思ったけれど、関係なくてびっくり。しかし二巻のリリスといい、たまに神話的に意味のある名前が出るのはなんだろう。
(シバルバーはマヤ神話の冥府)
五巻
死ぬって…あんな感じ……なのかなあ…
今回はナユタが表紙。チッ……いつも通りエンマで飾ってればいいのに。
まあ冒頭の話からして、ナユタの正体が判明するんだから仕方ない。がまあ、それが小学生のころ読んだ『スーホと白い馬』なんだからびっくりした。原作では馬はどうなったんだっけ?(死後、馬頭琴になったのは覚えてるが)
サミーラとゾバイダ、おっぱいあったのにソバイダが姉に泣きつくシーンまで、女だと気づけなかった……。
三本目、恋するアウレリウスは中々に切ない。あんなに尽くしたのに、結局女からは何とも思われてなかったんですよね。
さて、今回最後の話はエンマが骨抜きに行かない日の話。
今まで話の最後らにちらほら出ていた、エンマ自身の謎や冥府の裏事情などなどが開陳されます。ナユタの黒幕・楚江王や、小物っぽい前者より更に手強そうな帝釈天、そしてエンマと特別な繋がりのある地蔵菩薩(故人)。
仏教経典でも地蔵菩薩と閻魔王は深い関係(同一説まである)から、そのへんの話が反映されてて思わずニヤニヤしてしまいます。十王会議の様子とかね(拷問具 煮えた銅が不足してます〜など)。
しかし楚江王が色々と面白い。小物臭は以前からしてましたが、動機が思いっきり私怨。第一になれなかった理由とかまったく理解してないし。その上「いつも素晴らしいですものね」が自虐かブーメランにしかなってない所がまたw
一方の閻魔王は「好奇心ばかり強くなって…」とか、エンマのお父さんっぽさがどんどん増してて楽しい。オマケ四コマでは反抗期の娘に対して、お茶目パパになってましたが。
しかし地蔵菩薩の魂はなにゆえ消え去ったのやら。もうすぐ発売の六巻で分かるんだろうか。掌を見つめているあたり、救おうとした死者に何かあったっぽいんですが。
ともかく、ここからはオムニバスストーリーから冥府の陰謀劇にチェンジという所でしょうか。今までのような一話完結式もいいんですが、冥府の話やキャラクターはもっと見ていきたいですね。期待、大。