今日マチ子『100番めの羊』

100番めの羊

100番めの羊

 サイト巡りをしていた際に見つけたレビューを元に、購入を決意した作品。
 普段あまり読まないタイプの作品なので、ピンと来ない部分もあるにはあったりするが、その「分からない」感が自分にはとても新鮮。分かりたい! という欲求もあるけれど、分からないまま漠然と感じる何かが心地よくもある。
 ジャンルはまあ、帯に「こんな少女漫画が読みたかった!!」とあるので、少女漫画なんだろう。
 昨今の少女漫画といえば、レディコミあたりで性描写が激しいことになっていて「これが小学生の読む物か!?」と頭を抱えたりする……なんて話をよく聞く。逆レイプとかね……ネタとしてもよく扱われているけど。
 幸いこれは、それらとは全く無縁の作品。でなけりゃ読んでないけれど(笑)。
 主人公の女子高生なおみは、雪の日に修道院前に捨てられていた女の子。三人のシスターに育てられたけれど、特別荒れているわけでも、自分を押し殺すでもない、ごく普通の子だ。
 己の境遇を悲嘆するだとか、そういう流れにはならない。最初に少しその気配があるだけだが、本当に少しだけ。ほどなくしてそれは砕け散り、やがて作中の空気に微粒子として混ざっているような印象がある。
 全体としてとても淡々としたカラー。絵自体は全編フルカラーで、淡い色彩と線の、シンプルな絵柄ともよくマッチしている。作者のおかしなペンネームも含めて、それがこのお話の匂いなんだという所か。
 明るい憂愁というか、爽やかな寂しさとでも言おうか? ドロドロした展開になりそうな要素があちこちあるのに、ギャップを感じるほど物語は静かに進み、そして終わっていく。
 現実にドラマチックな状況に遭遇しそうになったとしても、結局は何事も起こらないまま収束してしまうような。そういうある種の現実感もある。
 登場人物達がみな、どこにでもいそうな、どこかにいそうな感じが漂うのも一因か。なおみのことが好きだという百合少女・マナだけは少しフィクション的なキャラクターだけど(執事の美青年も含めて)。
 作中の空気がちゃんと、登場人物たちが吸ったり吐いたりして作っているのだという、息づかいとして感じられる世界だ。


 なおみはハヤシさんという怪しげな青年に心引かれている模様。
 嘘ばかりついて虚飾まみれの彼を、なおみも嘘つきだと感じながら気にしてしまう。最後の最後に、ほんとうのことを言ってくれたようで、彼も、周囲の人々も一歩進んでこの話は終わる。
 終わったけれど、この世界はまだまだ続いていて、彼らの心の動きと息づかいは紡がれているのだろう。書けそうば書けるだろうに、それを書いていないのは、それがもう読者の手に委ねられているからかもしれない。
 タイトルは、確か聖書に出てきたお話で「迷っていてもかならず正しい道に導かれる」羊のことだそう。元々はクリスチャンなので、懐かしいやら不思議やら(キリスト教では主イエスをよく羊飼いに喩えます)。
 とはいえ、作中にはそんなに宗教色はないので、苦手な方も安心してお楽しみいただきたい。