大今良時, 冲方丁『マルドゥック・スクランブル』1

 心の殻を割れずにいるんだね
 周囲にあまりに自分を傷つけるものが多すぎて…

マルドゥック・スクランブル(1) (少年マガジンKC)

マルドゥック・スクランブル(1) (少年マガジンKC)

マルドゥック・ヴェロシティ〈1〉 (ハヤカワ文庫JA)

マルドゥック・ヴェロシティ〈1〉 (ハヤカワ文庫JA)

天地明察』あたりから冲方プッシュが始まっている感じでしたが、劇場化ともどもめでたくコミック化も果たした、冲方丁星雲賞受賞作!
 オイレンシュピーゲルのコミック版は「まあラノベのコミカライズなんてこんな物だよね(原作のオマケとしてはアリだが、単品の漫画作品としてダメ)」という微妙さ。
 で、スプライト版にいたっては評判が悪すぎて手を出す気にもなれず。マルドゥックのアニメ化も過去に一度お流れになったりして、メディアミックスに恵まれない作家というイメージだった冲方丁
 しかし、このマルスクコミックはそれを打ち破ってくれた!
 まず表紙の首が位置おかしい気がしたり、一話の扉絵にいるバロットの顔が微妙だったりで画力に不安があったんですが、実際読んでみると杞憂以外の何者でもありませんでした。
 ちょっと玉置勉強(東京あかずきん、あたりの)っぽいかな?
 食べ物や風景の書き込みが細かいのが実にいいです。118pの一ページ丸ごとマルドゥックシティの風景だったりして、読者の目に作品世界が鮮やかい立ち上がってくる。カンノーロ美味しそう。
(ウフコックの「食べてみるといい!」はちょっと強引な感じでびっくりでしたが)
 劇場版の公式サイトが更新されましたが、あっちのキャラデザがかなり微妙な案配だったのに対し、本作のキャラデザもいい感じです。ドクターの髪が七色じゃなくブロンドにしか見えなくて、若すぎるのが少し難点か。
 ドクターはもうちょっとおっさんでもいいと思います(それこそ劇場版のように、無精髭つけたりとか)。でも、身振り手振りのジェスチャーも大きくて、くるくる動くドクターは素晴らしい。
 ウフコックはデフォルメされたネズミって感じでちょっと可愛すぎますが、漫画だしこれぐらいでOK。
 バロットやシェルもそれぞれ「らしい」し、何よりボイルドが格好良い! 原作挿絵の寺田デザインを、うまく作者の画風に落とし込んでいる感じ。原作のボイルドに感じた重厚感が、登場するたびに滲み出ています。
 でも一番凄いのは、一話の途中からずっとオリジナル展開なのに、まったくストレス感じない点ですね。
 一話では蘇生させられたバロットが脱走をはかるんですが、電子攪拌(スナーク)能力で車を操り、それで壁をぶち破って逃走。その時の、車が突っ込んでくる見開きページの迫力に魅了されました。
 脱走後のバロットがシェルとその取り巻き達に出会って、記憶を消したこととかこれまでの被害者もみんな、バロットと同じことを言っていたと言われるシーンも強烈。
 あと、部分的にカード読み取り機になるウフコックのアイデアにも感心しちゃいました。
 他にも「パンの耳ばかり食べるバロット」や、ファッションセンスに疎くてキッチュ過ぎるブティックを選んでしまうウフコック、バロットの足を手当てするドクターなど、原作にはないあれやこれやが出てきてもすんなり受け容れられる。
 作者がきちんとキャラクターや世界観を理解して、その上で自分なりに動かしていっているんだなーということが分かって、それがとても気持ちよい。もはや「原作のオマケ」ではなく「もう一つのマルドゥック」ですね。
 原作知っている人も知っていない人も楽しめる、実に作者GJ! のコミカライズ作品です。
 それと数ページだけですが、バロットvsプッシーハンド戦がオマケ収録されてる。本誌じゃもう畜産業者の人たちが活躍しているようだけれど、このオマケからどれだけデザイン変わって出てくるかな?