アルフレッド・ベスター『虎よ、虎よ!』

「あなたがたはみな奇形なのです。しかしいつでも奇形だったのです。人生は奇形です。だからこそ、それがその希望であり栄光なのです」

 著名な古典SFの傑作(の新版)。寺田克也イェーイ。ハインラインの『宇宙の戦士』もそうだが、核爆発や放射能の扱いがいい加減なあたりが、古いアメリカのSFって感じ。
 最近はてダでよく言及されると思ったら、『紫のクオリア』絡みだった模様(未読なのだが、作中にジョウントの語が出るんだっけ?)。ジョウントといえば藤田和日郎短編集にもネタがあったなあ*1
 しかし、本作を読んだ印象としては傑作! と手放しで褒めるほど面白さを感じられなかった。
 世界観やアイデアはとても面白い。人類がテレポート能力「ジョウント」を身につけ変容した世界、人間の可視領域から外れた光線を見る盲目のオリヴィア、一方通行のテレパス、七十歳の子供(AKIRAのナンバーズみたいなイメージ)、あらゆる感覚を経ったスコプツィ植民地(人間があんなことしたらストレスで死ぬか発狂すると思うのだが、これが書かれた時代にはまだそういう実験結果は出てなかったんだろうか?)。
 しかしこんな若輩の、ニワカもいいとこのSFかじりが言うのもなんだが、設定に粗があると思った。全体の流れからしても勢いで魅せるタイプの話みたいだけれど、ストーリー自体も微妙な気持ちになったので、どうしても引っかかる。
 印象としては、冒頭と終盤が一番面白くて、間は惰性で読み進んじゃいました。
 こう、ブツ切りの話が連続するような展開は「まあ古い作品だし」と納得させられたんですが、全体としてのカタルシスとかが足りないなあと。粗筋からもっと豪快な復讐娯楽劇を想像していたから、アテが外れたのかも。
 フォイルが世界戦争の行方を握る秘密とともにあって、彼の復讐のみならず、彼の存在がお偉方を振り回す……という基本的部分は期待通りだったんですけれど。これは単に、私の趣味に合わなかっただけかも?
 世界観自体はとても賑やかだから、その意味では確かに豪快だったんですが。
 ちなみに主人公・フォイルは肉体改造で加速装置を持ち、奥歯にそのスイッチがあります。『サイボーグ009』が確か1964年からの連載、本作は1958年の執筆(でも改題後の出版が64年)。奥歯のスイッチはこれが元ネタと思っていいのかなあw
 それはそうと、ジョウントによって変質した世界というのはもうちょっと細かく見てみたかった気がします。テレポートが可能になったから女性の社会進出が抑制された(基本的に外へ出してもらえないらしい)とか、どういう理屈なんだろう。
 ただまあ「燃える男」の正体がわりと予想通りだったのは別として、終盤、怒濤の展開は読んでいてワクワクしました。でもどこか・いつかじゃなく、エルスウェア・エルスウェンってカタカナ訳にしてるんだろう?
 見た感じとしては、フォントを駆使して変形させた文字や、文章に紛れる絵などで読みづらい部分でもありましたが。

*1:「モルデワイデ死に」って青ジョウントみたいなもんですかね