諸星大二郎『栞と紙魚子の生首事件』
「もう少し驚いたら?」
「あんたが驚くなって言ったんじゃないの」
- 作者: 諸星大二郎
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2007/10
- メディア: コミック
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氏の作品は『暗黒神話』(菊池彦様!)とアフタヌーンでやってた連載ぐらいしか読んでいないのですが、一目見ただけで独特な雰囲気がビンビン滴ってきますね。昔はこの絵が受け付けなかったんですが、三話目を読む頃には「う〜ん、『枯れてはいないわよ』の紙魚子いいなあ」とか言ってました。
少女ホラー雑誌ネムキ(百鬼夜行抄ぐらいしか私は知らない雑誌です)での掲載だったから、女子高生を主人公にしたシリーズ、と作者コメント。帯で実写化のお知らせが載っているんですが……作中の二人と俳優がさっぱり似なくて笑う。
(なんかゾンビ屋れい子の実写版思い出すわー)
それにしてもシュールな味わいの一冊でした。「怪奇ゾウ男」もそうですが、ケーキの砲弾でタンクローリーと戦うケーキ屋、「最近はこんな物もあるのか」とハンディカラオケ片手に花見をする亡霊、水槽で魚のように生きる生首……。
下り坂の下に広がる地獄や、二話目の内容など普通にホラーしていることも多々あるのですが、栞と紙魚子のズレっぷりがそれを日常の一コマに変えてくれます。
化け物と相席した花見が終わって「これも一興じゃ」「一興じゃない!」と帰る彼女たちの姿は、平凡な田舎の風景とあいまって、超常現象を単なるトラブルの一つにまで落とし込んでしまう。
見ていてちょっと羨ましいでもないんですが、いや冷静に考えてヤバイだろう、とも。栞と紙魚子だからさっくり切り抜けていられるんだろうなあと思います。よぐの襲撃とか、段一家絡みは特に。
ただ、彼女たちも完全に「あっち側」に振り切れているわけではなく、あまりに常識外れな物から目をそらそうとしたりと、一般人的な反応も垣間見せてくれます。
生首事件
表題作。「こりゃすごい物見つけた」なんて出来心で生首を持ち帰っちゃう栞と、やはりズレた反応の紙魚子。「紙魚子にも見せたかったし」と言われて「ありがと」なんて返すかww
そして紙魚子が持ってきた古本により、生首を「飼う」ことに……と、全体的に奇妙な味わいでした。あの生首との交流? やなんかがもっと欲しかった所ですが、ページ的にはこんなもんでしょうか。
自殺館
本作では特にホラーっぽかった一遍。あっさり自殺幇助に踏み切ろうとする栞と、「あんたのそういう所が分からないのよね」とツッコミを入れる紙魚子。なんか真剣さの部分がどこかズレた娘達だ。
自殺館のマスターは結果的に葉子を止めてくれたようですが、止めた理由って「自殺はいけない」という道徳とかじゃなくて、「自殺は苦しいもの!」という持論に乗っ取っただけの気がする。
桜の花の満開の下
このエピソードは特にお気に入り。今回は栞より紙魚子が変人ぶりを発揮します。「風流な上に豪気」ってw
夫婦の首吊り死体がのんびり語らうシーンが切なくていい。
ためらい坂
あのタンクローリーなんだったの、の巻。いわくつきの坂で呪われた栞が、紙魚子と一緒にそれを解こうとするスタンダードなホラー展開。なのですが……。ケーキ屋がそれをくつがえしてましたw
あれだけやって落ちがケーキ爆弾ですしね。
殺人者の蔵書印
ちょっとサスペンス風味だった一編。濡れた女の髪(それも結構多い)が挟まっている本を、それでも読み続ける栞は肝が据わりすぎています。女幽霊が水中からあがるシーンは怖いというよりシュールな気がする。
ボリスの獲物
ぬこーぬこー。後の話でも登場するクトルーちゃんが初登場。
栞の飼い猫・ボリスが奇妙なぬいぐるみを仕留めてズタズタにしてしまうのですが、やはりタダのぬいぐるみではなかった。少女二人で「ぬいぐるみ」をチクチクするシーンがムズムズする。私なら途中で投げ出すか逃げるw
後半の襲撃はモンスターもののホラーみたいだったけど、猫が全部解決しちゃったのがイイw
それぞれの悪夢
紙魚子の「怪人ゾウ男」も絵的なインパクトに大笑いしましたが、それ以上に栞パートの「人間になったボリス」が衝撃過ぎました。
少女誌で、飼い猫が人になったというのにあの造作。確かに真面目に変身させたらああなるんでしょうが、夢ブチ壊しっつうかなんつうかイヤ過ぎです。落ちと後の話を見るだに、マジっぽいからなお困る。
クトルーちゃん
タイトルの時点でラヴクラフト余裕でした。
栞がベビーシッターのバイトに行ったのは、「よぐ」の飼い主らしき変な少女のお家だったのです、という導入。案の定その家では奇怪な出来事に振り回される嵌めに。
「段一知」などのクトゥルーパロが楽しい一編でした。あのお母さんや奇妙さを外国人と言い張ったりとか。テケリ・リ!
ヨグの逆襲
段一家その2(ヨグふくめると3)。ボリスvsヨグ再びの巻。今度は紙魚子も一緒に、段一知家の怪異と遭遇します。段一家がらみの話はホラーギャグぽい感じが強くなりますね。
ゲッコウカゲムシ
これは幻想の色が強い作品。満月の夜に現れる、影だけで実体を持たない不思議な生物らと関わります。自分の影に逃げられて、それを掴まえようと追いかけっこするとか中々ファンタジー。
シリーズは結構出ているので、ぼちぼち買い集めていこうかな。