山形石雄『戦う司書と黒蟻の迷宮』

「小さいものでも、弱いものでも、みんな同じなのよ。あの蟻も、モッカニアも、母さんも同じなの」

戦う司書と黒蟻の迷宮 (スーパーダッシュ文庫)

戦う司書と黒蟻の迷宮 (スーパーダッシュ文庫)

 戦う司書シリーズ第三弾。
 トリビア:タイトルに巻数がついてない作品って何巻なのか分かりづらかったりしますが、そんな時は背表紙を見ましょう。レーベルによって違いはありますが、SD文庫なら上です。『黒蟻』だと「や 1-3」とりあますが、これは作者の頭文字+シリーズ+その○本目って意味です。


 今回は武装司書の反乱という形で引き起こされる、神溺教団の攻撃。武装司書でも最強の一人に数えられ、しかも他のメンバーを一人で圧倒できると目される実力者・モッカニア=フルール。彼は何故反乱を起こしたのか!?
 前作も『怪物』は何者なのかという謎解きが話の牽引力となっていましたが、今回の場合は「反乱の理由」ですね。とりあえず読者や作中人物が最初に思いつく推理はパパッとひっくり返される。
 モッカニアが動いたその背景には、一人の神溺教団戦士の人生が横たわり……。
 というわけで、全編まるごとモッカニア=フルールという武装司書のお話でした。
 ノロティも最初出ますが、足を食われた後は全然出番がなくなっちゃう。エンリケもいるけれど戦力に数えてもらえないし(雷撃でまた水ぶくれ作ってたけど、戦闘力もまた下がってる?)。
 代わりに、フィーキーさんはほとんど一発ネタ的なインパクトでしたね。出撃体勢がパンツ一丁、状況が状況だけに誰も突っ込めないし。あの人の魔法審議ってどんなことになってたんでしょう。
 鋼海潜行と似た能力で『武装錬金』を思い出します。根来は自分の髪の毛とか服に縫い込むことで、服を着たまま亜空間移動していましたが。フィーキーも最初は素っ裸だったりしたのか? キャラ紹介だと堅物の軍人風に描かれてたのになー。

8 名前:イラストに騙された名無しさん[sage] 投稿日:2009/10/22(木) 08:45:35 ID:2Krb5XWe
フィーキー・クインは鉱物の中を泳ぎ、潜ることが出来る


という魔法権利を得たが、衣服を着てるとそれが引っかかって潜れないことが判明、
これは不味いと、衣服や武器を装備してても大丈夫なように魔法権利を追加しようとするも難航、
とりあえず必要最低限なレベルでパンツとナイフなら大丈夫になった、
これから徐々に装備できる物を増やそうと考えていたが、人前で脱衣する快感に目覚め、
「魔法権利の取得に難航している」というお題目で、フィーキーさんは密かな悦楽ライフを送っていたのだ。

 ……という、作品スレとかの書き込み見る分には人気はありそうな感じですが。ええ、私も大好きですよフィーキーさん。


 戦う司書の世界は大戦前ぐらいの科学技術水準があるようなので、いわゆる『剣と魔法のファンタジー』ではありません(シロンが生きていた三百年ぐらい前は、だいたいそんな感じだったっぽいですが)。
 でも今回は封印指定された『本』を収める図書迷宮、すなわちダンジョンを舞台にした戦闘なので、ファンタジーバトル物の楽しさが出てていい。ファンタジーTRPGだって最初はダンジョンの中しか舞台にならなかったもんね。
 そんな図書館にすら近代化の波が押し寄せているのはある意味生々しいか。電信室のあるダンジョンって寡聞にして他に知らぬ。まあこうした連絡手段がないと困るシーンが、作中多々あったわけですが。
 暗い迷宮で繰り広げられる、ほの暗いストーリー。優しすぎたばかりに外出すら困難な引きこもりと化したモッカニアは、甘ったれではありますが、本当にお母さんが好きだったんですよね。生涯母との誓いを守り通したモッカニアと、そのモッカニアのあずかり知らぬ所で、彼のためだけに生き続けたウィンケニー。
 初登場時の、ぬいぐるみと遊び、飴を食べるモッカニア(23歳)には「なんだこいつはw」と笑いつつも胸キュンするものがありましたが。それから繰り広げられる熾烈な戦いと、彼の過去、そして結末に最後まで目が離せませんでした。


 で、次は四巻なんですが……ちくしょう本屋にないorz