山形石雄『戦う司書と雷の愚者』

「どうして死ねば償うことになるんですか? 誰だって死ぬのに。
 皆、当たり前にやることを、当たり前にやったって、償うことにはなりませんよ」

戦う司書と雷の愚者 BOOK2 (集英社スーパーダッシュ文庫)

戦う司書と雷の愚者 BOOK2 (集英社スーパーダッシュ文庫)

 戦う司書シリーズ第二弾。今回の主役は表紙の彼女・ノロティ=マルチェ。アニメで最初に見たのが雷の愚者編その1だったものです。
 粗筋は、えーと。前作の事件から半年、あの戦いで命を落としたルイモンの『本』が盗まれ、武装司書見習いのノロティはその奪還を命じられます。ところがバントーラ図書館には、新たな神溺教団の戦士『怪物』が正面突破を仕掛けてきて……というお話。
 前回出てくるなり速攻で死んでいたルイモンさんが、ちょびっと出番があったのが何だか嬉しい。
 武装司書の仕事を「つまるところ死の管理」と的確に言い表したり、「人を助けるのは倫理であって義務ではない」とか、少ない出番でも結構キャラ立っている感じ(でもモッカニアはルイモンのようにはいかなかったんだよな……)。
 今現在このシリーズは三巻まで読んでいるんですが、どれも250pくらいで、サックリ読み切れる軽さがあります。内容は割と重めでしたが。ほの暗く退廃的なファンタジーがやはり売りか。
 前作の白煙号回想とかで「服を着た家畜」とかありましたが、今回は肉視点から、神溺教団で肉たちがいかに飼われているかという描写もありますし。そういえばエンリケが泣いたことに腹を立てた擬人らしき人はなんだったんだろう……。
 前作で多少なりともコリオに影響を与えた「人間らしさを失っていない爆弾」レーリアは、今回も大活躍でしたね。エンリケ−レーリア−クモラ−またエンリケ……とこのへん、かなり重要なファクターになっちゃっているし。
 今作は『本』の記憶と、現在の出来事が章ごとに入れ替わる構成で若干読みにくさがありました。が、その辺の内容が最後、ザトウの沼でクモラ視点で語り直されて別の側面を見せてくれるのは見事。
 笑顔を渇望し続けるエンリケのドラマは、特に印象深い物がありました。
 まあ、ザトウの沼で死んだ人たちがぞろぞろ出てくるのはちょっと苦笑してしまいますが。まあ事情を知っているのは『本』を読んだからでOKとして、エンリケと直接和解するシーンとかないからなあ。あと、臓腑の中で粉々に砕いたらかえって消化しやすくなる気がするが、あれは消化も出来ないほど綺麗に塵と灰にしてしまったということなのか……。
 今回は魔法権利について「自分にしか使えない、自分だけの魔法」と解説が入っていました。ぬう、何とも中二ゴコロをくすぐる設定。それを活かした能力バトル的な側面が好きです。冒頭の『怪物』戦からして大盤ぶるまいでしたし。
 なんか気がついたらガンバンゼルは死んでましたね。いきなりハミュッツとお茶してるからもっと大物かと思ったらそうでもなく(アニメでは出世したらしいですが)。ああ、でも回想でシガル出たけれど、アニメだとその背後にアルメが追加されてたような。
 とりあえず神溺教団と武装司書の戦いはこれからだ! な一冊でした。あと、神溺教団が造った怪物よりも、ハミさんはおっかねえぜ! とか。あと神溺教徒の『本』はラスコールが回収してるんですかね(前作のラストからして)。
 ところでマットアラストの能力は「予知魔道の素養」とか「魔法権利は二秒先の予知」とかあるんですが、これは予知魔道という魔法権利があるのか、魔法権利を魔道と言い換えているだけなのかよく分からんのですがどうか。
 ノロティは不殺の新年と、見習いという立場からして、主人公っぽさ満点でしたね。彼女の妄想に登場した先輩武装司書たちは、確実に実物よりサディスティックに設定されていると思います。
 ハミさんだっていきなり引き裂きにかかりませんってー(……多分)。