山形石雄『戦う司書と恋する爆弾』&篠原九(コミックス版)全三巻

「難しいことじゃないよ。あたしもカートヘロも、ぜんぜん何もできない人間だけど、それだけはできたから。
 自分から、離れていかないで。
 遠くに離れてるように見えても、ほんとはすぐそばにいるから」

戦う司書と恋する爆弾 (スーパーダッシュ文庫)

戦う司書と恋する爆弾 (スーパーダッシュ文庫)

戦う司書と恋する爆弾 2 (ヤングジャンプコミックス)

戦う司書と恋する爆弾 2 (ヤングジャンプコミックス)

戦う司書と恋する爆弾 3 (ヤングジャンプコミックス)

戦う司書と恋する爆弾 3 (ヤングジャンプコミックス)

 第四回スーパーダッシュ新人賞・大賞にてデビューした著者のシリーズ第一作。来年一月にシリーズ最終巻出るらしいですけど、その後どんな作品を始めるか実に気になるところ。
 で、最近はアニメ化もされまして(ってもう十話以上経つんだなあ)。そのアニメのPVで存在を気に留め、コミックス版から入った作品。昔少年ジャンプ読んでいたころ、二巻あたりの宣伝が載っているのを見たんですが。
 その時は「人が死ぬと『本』になる世界」という設定が印象に残ったものの、それ以上のものではありませんでした(しかも表紙絵の関係でノロティが主人公のハミュッツだと思っていたというw)。
 見た順がコミックス→原作一巻→アニメ一話というゴチャゴチャなことになっていますが、アニメはともかくコミックスは原作一巻の内容を忠実に漫画化していて初見の人にはお勧めの内容。
 なにぶんデビュー作ということもあって、文章はかなり簡潔で、しゃべっている時のキャラの動作や表情ってあまり地の文で書かれていないのですよね。漫画だとそのへんかなり細かく描写されているので、コミックス見てから原作読んだほうが、色々と想像しやすくなっている(ハミュッツに向けて語るシロンとか)。
 本編はといいますと、完成度高いなあというのが印象でした。全てのシーンがまず無駄がなく、きっちり伏線を張り巡らして回収している。全体的に淡々として、必要なことだけを機能優先一徹、エピソードをこなしていった感じ。
 世界最強の戦闘集団・武装司書と、彼らが弾圧する邪教・神溺教団の戦いがまず背景にあるわけですが、焦点があたっているのは変則的ボーイ・ミーツ・ガール「コリオとシロン」。千年先の未来も見通す予知者の少女と、死んで『本』(触れるとその人の人生が追体験できる、魂が化石になったもの)になった彼女と出会う人間爆弾です。
 恋をした相手はとうにこの世になく、自分はといえば胸に爆弾を埋め込まれ、過去の記憶もこれから生きる目的も行く当てもなーんにもない。そんな色々とどん底のコリオ君でしたが、爆殺目標であった「ハミュッツ=メセタ」――武装司書の頂点に立つ世界最強のメスゴリラ女とでっくわし、アイデンティティでもあった爆弾を奪われてしまう。その一方で、ハミュッツと部下の武装司書たちはトアット図書鉱山(『本』が採掘できる町)にて敵性勢力の調査を進めるのであった、とそんなお話。
(ジャンプの宣伝で主人公を二巻表紙の女性=ノロティと勘違いし、なおかつ人間爆弾コリオが一目惚れしたのが爆殺対象のハミュッツ=私がハミュッツだと思ってたノロティだった、とゆーその昔の勘違いを今現在照らし合わせると笑うしかない。激しく余談)
 タイトルは「主人公二人のことをそのまま書いた直球勝負」とのことですが、戦う司書なハミュッツがラノベ主人公ではまれに見る「投石」を主武装としていたり、もう一人の主人公であるコリオの特技がメガンテ一択というのは、結構珍しいんじゃないでしょうか。テレパシー魔術に返信できないハミュッツが、手紙を入れた弾を投石機で飛ばして返事にしたりとか、ちょっと笑ってしまった(アニメでは普通に返信してたが)。
 投石って人類最古の武器でありながら、安価かつ効果的で、戦国時代の民衆とか全共闘時代の学生とか、「支配者に抵抗する民草」的ポジの人たちには頼れるアイテムだったと思うんですが。本作で使っているハミュッツは社会的弱者どころか世界最強の称号を持つ女性なんですよねー。金も権力もあるし。それ以前に触覚糸(魔法)を使った超高精密センサーで遠距離狙撃もするし。
 それにしても、この世界の「未来」や「時間」の定義というか、予知ってどういうものなんでしょうね。予知魔道を使える人を政府で集めたと思えば、主なお仕事が天気予報だったり。わりと低級の予知者であるマットアラスト(二秒先まで)が「低級だと未来に騙されることもある」と発言していますし。実際に「未来に騙された」事例が作中で出るわけですが。
 一時期戦う司書関連のネタバレが凄いことになっていたWikipediaによると、マットアラストは二秒先の未来を予知することで「斬られてから避ける、命中してから銃を撃つ」みたいな芸当が出来るそうで。
 ……それは一種の高精度シミュレーション能力のような気がしますが。コリオとシロンの「ぐるぐる回る恋の円環」を見ると、変更できない確定的な未来がないといけないはずだし。運命決定論の世界なのかなあ。
 いやまあ細かい所突っ込んでいても好きなんですけれどね。超能力バトルっぽい所とか(アニメ一話でヴォルケンがやっていた舞剣とかすばらしい)。独特な音でなおかつ語呂がいい、不思議な語感がするネーミングの数々とか。
 それにしても、本作のコミックス版はラノベのコミカライズとしてはかなり成功しているほうではないでしょうか。以前読んだオイレンシュピーゲルのコミックスは、一冊で一生懸命一巻分の内容をまとめていました。
 しかしこれは三冊かけて一巻分の内容をやっているので、中身がじっくり描き込まれてていい。一巻だとマットといいルイモンさんといいレーリアといい、所々男キャラがマズーな感じになっていますが、全体的には安定しているかな。
 何よりおまけのちびキャラ(一巻に登場していないキャラもある)や、四コマ漫画が秀逸。マットがスケベキャラを定着させられオチ担当になっていたり、「代行の本体はウサギ」ネタがあったり色々と楽しいことに。
 あ、あと細かいことですが、エピローグの『本』屋についてのシーンだけ、原作と大幅に変わっていますね。入院しているミレポックとイレイアさんだけの会話だったのが、代行とマットも加えたお茶会になってますし。
 その後に出たラスコールのシーンが削除されているあたり、コミカライズは恋する爆弾で終了っぽいですが。……シリーズ全部やろうとしたら、三十巻ぐらいになっちゃうだろうしなあ(一巻分が三冊という単純計算だと)。


 久しぶりに、じっくり読みこみたいラノベに出会いました。