ジョン・スコルジー『最後の星戦 老人と宇宙』3

 そもそもあなたたちにこの件を伝える必要はなかったのよ。
 あたしが本気で隠蔽すれば、あなたたちにはそれを暴くことはできない。でも、あたしたちはそうしたくなかった。あなたたちみんなに話すべきだとわかっていた。あなたちを信頼して、そもそも共有する必要のない情報を共有した。
 そのあたしたちが植民者に伝える前に時間がほしいといってるんだから信用して。

最後の星戦 老人と宇宙3 (ハヤカワ文庫SF)

最後の星戦 老人と宇宙3 (ハヤカワ文庫SF)

 老人と宇宙、第三弾。ジョンとジェーンの旅はきれいなフィナーレを迎えました。惜しむらくは、今回からトールサイズになっため、既刊二冊と並べた時、背丈が合わないのが気にくわないって点ですが。
 ジェレド・ディラックを主人公にした前回からひるがえり、今回は再びジョン・ペリーの物語。
 退役したペリーは、植民惑星ハックルベリーで村の監査官(ツブシのきかない元軍人らしく、雑用・便利屋)として平穏な暮らしを営んでいた。そこには同じく退役し、妻となったジェーンや養女のゾーイもいる。
 そんなある日、ペリーは十の世界から植民者を募って作る新しいコロニー“ロアノーク”のリーダーに任じられたのだった。政治的な思惑が絡み合ったコロニー建設には、何やらキナ臭い影がつきまとう。かくて彼らは、陰謀の渦中に叩き込まれるのだった!
 さてさて、前回出てきた様々な情報が見事に伏線として機能していてる本作ですが、残念ながら今までのように派手な戦闘は少なかったです。ペリー自身がいない所では、いつも通り宇宙戦艦がドンパチやらかしているんですが。
 主人公はもう改造された肉体じゃないし、CDFの装備もなけりゃ、率いる部隊も仲間もいない。そのため使えるものはなんでも使い、とことん見捨てられた状況の中、あり合わせの物で危機に立ち向かいます。
 また、前作に登場した「人類の裏切り者」チャールズ・ブーティンですが、今回はその実子ゾーイがジョンとジェーンの養女として暮しています。エイリアンのオービン族つきで。ブーティンはオービン族とある取り引きをかわしていたのですが、紆余曲折あってそれは一応成功し、彼らは感謝の念から娘のゾーイも崇拝しているのでした。
 というわけで、オービン族は主人公たちが得られる数少ない協力の一つです。
 にしても、コンスー族の考えることはよく分かりません。彼らの琴線に触れたんだろうけれど……。
 前作の終盤で存在の明かされた“コンクラーベ”が今回の主要な敵になりますが、そもそも危機に主人公と植民者一同を放り込むのはなんとコロニー連合そのもの。ブーティンがコロニー連合は情報を隠蔽していて、そのせいで人類は危機にさらされている云々と言っていましたが、その通りの状況が今回示されます。
 ところが面白いことに、ペリーはコロニーを率いていく上で、コロニー連合と同様の「民衆(植民者)に対する情報の隠蔽」を行わなくてはならなくなったりします。もちろん、あの場合ペリーの判断は間違ってなかったと思いますが。こうして隠蔽体質は生まれていくのねという実例を、身をもって体験するはめに。
 ジョンとキャシー、夫婦の物語だった第一作。ブーティンとゾーイ、そしてジェレドという親子の物語だった第二作。そして、第三作は家族の物語。「あたしの世界」という言葉にも表わされている、故郷、帰る場所としての家・世界というものが描かれた話でした。
 ジェーンが「星座を見えるようになった」というエピソードはほろりときます。一作目のアランも、向こうで星を見ているのでしょうか。そしてペリーも、懐かしい星座の世界に戻ってきましたしね。
 これ以上ない締めくくりは、これが三冊をかけておこなわれた「行きて帰りし物語」であることに気付かされます。
 最後が墓参りになるのも、ちょうど一作目の冒頭と重なりますし(ブーティンの墓参りもそうですが、本作は誰かの墓標に立つシーンが多いですね)。
 いつでもユーモアをきかせたやり取りがまた楽しい本シリーズですが、長年連れ添った夫婦としてのジョンとジェーンの会話は、ちょっとしたやり取りにも互いへの深い愛情が発露されていてしみじみとしました。
 ゾーイのボーイフレンドについて、ジョンやヒッコリーとディッキー(オービン族)がヤキモキするのも面白かったです。ブーティンとジェレドも加えてゾーイ防衛軍ができそう(笑)。
 なんというか、心が洗われるような、実に爽やかな終わりでした。いいもの読んだなあって。
 あの「狼男」は途中で存在を忘れられていたけれど、続編(未翻訳)では補完されているらしいので、是非続きが読みたいものです。ジョンとジェーンの「二人目」のこともありますし、ね。……その時はゾーイはハタチ超えるかな。