皆川亮二『ARMS』ワイド版全12巻
砂時計は…僕達そのものだ!! 他人に詰められたガラスの中の“生”。いずれ時が来たら砂は止まり… 死ぬ……
僕達に与えられた時間は少ない。こんな闇の中でうずくまっているヒマなんかないんだ!!
僕らを閉じ込めてるガラスを砕くまで!!
- 作者: 皆川亮二
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2007/06/18
- メディア: コミック
- 購入: 1人 クリック: 38回
- この商品を含むブログ (34件) を見る
- 作者: 皆川亮二
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2007/10/18
- メディア: コミック
- クリック: 8回
- この商品を含むブログ (8件) を見る
- 作者: 皆川亮二
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2008/01/18
- メディア: コミック
- 購入: 1人 クリック: 17回
- この商品を含むブログ (3件) を見る
まず敵は「世界征服完了済みです」ってレベルの超巨大秘密結社・エグリゴリ、彼らの意向一つで経済のバランスも核ミサイルの発射も思いのまま。どんな事件や戦闘が起ころうと、もみ消しなんてチョー簡単!
対する主人公たちは「同じ運命のもと生まれた兄弟」であり、その出生に隠された秘密=オリジナルARMSで超人バトルを繰り広げる。
ARMSのモチーフはルイス・キャロル『不思議の国のアリス』から来ているのですが、なぜか敵も味方も必殺技には神話モチーフをひっぱってくるのも素晴らしい厨臭さっ。そんな所が実に娯楽大作な漫画でした。
どう見ても死んだ描写されたキャラクターが、数ページ後には特に理由も説明されず生きてたり*1、
舞台が日本からアメリカに移っても言語の問題は完スルーだったり、
ジェフが最終回でも忘れられているっぽかったり、
つうか死人大集合シーンまでティリングハースト博士が死んだことスルーされていたようにしか見えなかったり、
敵の一団を倒したと思ったらお約束通り「HAHAHAそやつらは我々製品版をつくるための捨て石にすぎんのだ!」*2とあっさりインフレしたり、
植物状態になった巴武士が過去編一段落してからめっきり出番が減ったりと、ツッコミ所は山ほどありますが面白かった!
エグリゴリが人体実験を繰り返す非道な組織で、キース・シリーズのようなクローン人間なども生み出されたりして、生命倫理とか「大きな力に翻弄される人間」「力に魅入られ飲み込まれた人間」「力に屈する人間」などが登場して中々重いテーマも扱っているのですが、物語自体はバトル・バトルの連続(一日で全巻読破したため、ちょっと食傷するほどバトルの連続)。
何のかんので「奇跡」とか自分の意志で! とか、努力・勝利・友情のジャンプ三原則(もう古い気もしますが、この漫画自体十年ぐらい前の作品ですしね)にのっとた熱い少年漫画の王道を突き進んでいるので、暗くなりすぎたりはしない。
設定だけを抜き出すと「普通の少年漫画」なんですが、画力と構成力の高さがそれを陳腐な物にしないんですよね。画力はまあ、絵が上手いと言うより、劇画よりの絵で描写が綿密……みたいな意味で。
で、キャラクター一人一人の扱いも良かった。ある話で一人の成長をやったら、次の話で別のキャラにスポットを当てて、とバランスが良い(まあ武士がツリーマンスリープしてからとか、後半そのへんのバランスが崩れた感もありますが)。
作中に結構クトゥルーネタが多いのもクスリとできる箇所でした。ウェイトリー家の末裔ラヴィニアとか(でもぽっと出の雑魚で終わったなあ)、ミスカトニック大学とか、台詞の中でだけダンウィッチが出たり、猟犬とは無関係にティンダロス症候群って病名があったり。
もちろん各キャラクターも、とても魅力的でした。主人公の高槻涼は、バンダースナッチと混ざったバージョンのイメージしかなくて、もっとワイルドで怖いあんちゃんかと思ったら、常に冷静沈着ででもクールぶってないさわやかな人。ちょっと泰然としすぎている感はありましたが、その横で常に前へ出ようとする直情径行型の新宮隼人いて釣り合いが取れる。そんで三人目の巴武士は、登場時はそりゃあもうウザくてウザくて(つうかあの泣き顔はメインキャラがやるもんじゃないよねwっていうぐらい酷かった。ある意味生々しい)、それが後にスッキリぴんとしちゃうんだから堪らない。
メインヒロインのカツミは、お約束通り敵にさらわれてからは、やっぱりお約束通り存在が空気になってしまいましたね。しかし彼女の前ではデレまくりで素の青年に戻るグリーンには胸キュンするものがありました。あいつなんて初登場時は、音楽の指揮者ポーズで虐殺かますキザ野郎だったんですけどねー。
ヒロインといえばやはりユーゴーですよユーゴー。メインヒロインはカツミだったけれど、最後の抱きしめるシーンは良かったけれど、でもトゥルーヒロインはユーゴーでしょう!
久留間恵はどうも、「ヒロイン」って言うより「戦う仲間」っつー感じで……まあ私がああいう気の強いタイプ苦手ってのもあるんですけれどね。ギャローズ・ベルでのカリカリした彼女とかもね(まあその後、風のおっちゃんと出会うわけですが)。
しかし、テレパスだからって連絡の中継塔を任せるって、さりげなく恐ろしいことを主人公たちはしているよなーと思った物ですが、まあユーゴーだから大丈夫だったというか。いつも主人公を想ってて、健気で優しくていいよユーゴー正統派ヒロインだよ。
「これが私の最後のテレパシー」のあれはどうしたもんかと思いましたが。
あとはヴァイオレットも素敵な女性でしたね。エピローグでは結構男前になってしまってまあ。彼女は出てくるたびにコーヒーやお茶を口にして「まずい」と不機嫌そうに言うんですが、終盤で「うまれて初めてうまいと感じている」という言葉と微笑みには、彼女の中の苦しみと、この長い戦いが終わりに向かっていることが分かる素晴らしい演出でした。
それと忘れちゃいけないのが天才少年アルですな。「天才の行動を安易に批判するな!」とかは彼にしか言えない名言。ご多分にもれず生意気なショタだったわけですが、こんなに愛らしい生意気キャラはちょっと初めてかもしれん。生意気言うたびに隼人が拳骨を入れるんで緩和されたんでしょうか。この拳骨ネタも、隼人→恵→アルと継承されていったのが微笑ましい。
そういえばブルーを預けられた時は結構若かったけれど、高槻夫妻って幾つなんだろう……。過去十三回死んだことになっているとかさ……。あと、コウ・カルナギって最後どこへ行っちゃったんでしょうか。
SFアクションの名作、堪能いたしました。大人買い、後悔しないっ。