荒木飛呂彦『死刑執行中脱獄進行中―荒木飛呂彦短編集』

死刑執行中 脱獄進行中 (愛蔵版コミックス)

死刑執行中 脱獄進行中 (愛蔵版コミックス)

 長らく買おう買おうと思っていて、bk1の後で買うリストに突っ込んだままだった作品。このたびの東京行きにて、古書店街から発掘したので購入してしまいました。ああっ、ジョジョアゴは定価で買ったから許してっ。

死刑執行中脱獄進行中

 オ…オレをだましやがったなッ! こ…この部屋は牢屋じゃねえッ! 監獄なんかじゃねえッ!
 ここは『処刑室』だッ!

 表題作、内容はそのまま「死刑と脱獄が同時に進行する」話。
 序盤の蜂やスプーンの嫌がらせは陰湿な感じでしたが、魚の骨はマジ痛そう。でもその後の釘とかソファの段になると、グロとか通り越してシュールというか笑えてくる。何かどこかからスタンド攻撃されてるみたいでした。
 落ちは主人公の性格が見事伏線として機能してて鮮やか。あの「穴」は本当に出られるのか、それとも主人公の推測通りなのか分からないあたりも余韻を深めてくれる。
 しかし非効率で不可解な処刑法だなあ(笑)。話としては面白いんで、んなこと言ったら無粋なんですが。

ドルチ 〜ダイ・ハード・ザ・キット〜(前後編)

 とてもカッコイイぞ ドルチ! 勇気がわいてくるほどカッコイイ!
 荒木先生が猫を描くのって珍しい。ジョジョ三部終盤ごろのイギーっぽい猫ですね。あんなに凄い迫力(ドッスゥッ!!)でペットボトルに爪を刺すにゃんこは他におるまいw
 しかし荒木先生の描くキャラクターの切れっぷりは相変わらず素晴らしい。このドルチと同じ船に乗ってた(ていうか船の持ち主の)男・愛子雅吾の最初の不気味さ、そしてプッツンして本性表わす豹変っぶりは見てて滾ってしまう。
 そういえばこの作品が出たころって、ペットに服を着せるのってまだあまり流行っていなかったような気がします(弟はそうでもないと言ってますが、いかんせん記憶が曖昧)。今じゃ近所のホームセンターでも犬用の服とか売っているのよねえ。
 しかしドルチって何物だったんだろう……。

岸部露伴は動かない 〜エピソード16:懺悔室

「時」は今だッ! 「場所」はここだッ!
 何が起ころうがそれは運命の一部だッ! いいなッ!

 ジョジョ四部の人気キャラ・露伴先生が狂言回しを務めるエピソード。ジャンプSQでも別のエピソードが載ったなあ(でも16って?)。
 怨霊に取り憑かれた男が生死を賭けてゲームをするはめになるのですが、まずこのゲームシーンが見所。
 迫力満点のジャンケン勝負を描いた荒木先生だけあって、「投げたポップコーンを三回、口で受け止める」だけの勝負が鬼気迫る知力バトルになっている。鳩の撃退法とか、太陽の伏線とか、あくまで「運」を試すことに拘る怨霊とか。
 落ちの所でも、読み返すと「あ、こいつちゃんといたじゃん!」って辻褄が合っているのもいいです。

デッドマンズQ(全三話)

 「あの世」が確実にあるってどうして生きてるあんたにわかる? もしなかったらどうする気だ?
 本書で一番読みたかった作品。ジョジョ四部のボスキャラ「吉良吉影」が、「天国」に行けぬまま現世を彷徨う幽霊ライフです。
 昔これの二次創作もよく見かけたんですが、あまりオリジナリティある内容のやつはなかった覚えが……。
 作品の内容をそのまま文に起こしただけって感じのによく行き当たった。あとは主人公が花京院だったり、吉良が今も夫の帰りを待つしのぶさんの所へ現われたりって感じ。
 ジョジョではイギーとアヴドゥル、鈴美さん、ブチャラティと、ちゃんと「成仏(昇天)」したっぽい描写のあるキャラが多数存在するので、一応「天国」はあるっぽいのですが(つか六部の神父もそれ目指してたよな)。
 荒木先生なりの「死後の世界」のイメージを描いた作品ということで、設定が色々興味深いです。
 ストーンオーシャンの「屋敷幽霊」も登場しますしね。冲方丁/夢路キリコ『シュヴァリエ』五巻あたりのマスペロ戦(卵と鼠)は、屋敷幽霊の「卵」が元ネタなのかなあ。
 あの女坊主と、吉良が請け負っている「仕事」について、もう少し具体的な説明が欲しかったな、というのが残念なところ。幽霊を使って殺し屋させるって、なんかある意味式神使いのような気が。
 しかし心休まる家もなく、落ち着いて音楽の鑑賞も読書も出来ないあたり、結構わびしく切ないですね幽霊ライフ。あげく油断すると体を失うし、欠損した状態で世界の片隅にうずくまるとか凄い嫌。
 食事の必要は一応ないのかな?
 デッドマンズQはどっかで続きとか出ていないんですかねー。普通にまだ話が続けられそうな感じなんですが、残念。