ロバート・A・ハインライン『宇宙の戦士』

 おれは心底から入隊したかったわけじゃない。
 それも機動歩兵だなんて、とんでもないことだ! そんなことになるぐらいなら、公共広場で十ぺんも鞭でぶったたかれ、親父に、誇り高い家名に傷をつけたなんていわれるようなことをしたほうがましだと思っていた。

宇宙の戦士 (ハヤカワ文庫 SF (230))

宇宙の戦士 (ハヤカワ文庫 SF (230))

 ジョニーよ家に帰れ。ミリタリーSFの古典である。
 主人公・ジョニーはひょんなことから(親友に流されて新兵申込所で申請)軍隊へ志願してしまう。そんな彼を待ち構えていたのは、ハートマン軍曹と同質のノリを持つ、ズイム軍曹による地獄の新兵訓練キャンプだった!
 後記で作品に対する辛辣なコメントが山ほど寄せられ、コキおろされているのが凄い。なんでSFの古典を手にとって、「SF作家はどいつもこいつも想像力が貧困だ」と名指しでなで切りにするような発言を見なくてはならないのか。
 作中語られる「哲学」がファシズムパトリオティズムだと各所でアレルギー反応が起きたらしいですが、それを後記でぐちぐち突かれてもなあ……という感じ。
 まあ〈歴史と道徳哲学〉の教師・デュボア先生の授業や、同じくレイド少佐、そしてそれに続くニールセン大佐の長話など、一部は結構退屈でうんざりするくだりもありましたが、おおむね面白く読めました。
二等兵物語に宇宙服を着せただけ」なんてコメントもありますが、いいじゃんSF二等兵物語。オレが読みたかったのはそれなんだ。パワードスーツの仕組みが詳しく解説されるくだりとかワクワクするね。
 意外と戦闘その物は少なくて、軍隊生活の描写がえんえんと続き、それが主人公の一人称で綴っていく。出撃自体は何十回となく起こっているんですが、さらっと説明されるだけで、具体的に描写されているのは冒頭と終盤ぐらいでしょうか。
 軍法会議、鞭打ち刑、絞首刑、故郷の壊滅や親の死。仲間の死。頼れる上官の死。意外な再会や、意外な人からの思いも寄らぬ手紙。やがてジョニーは、部隊で押しも押されもしないファミリーの一員となっていた。
 そんな、鉄火と硝煙まみれの成長物語。
「最も崇高な使命とは、愛する祖国と戦争の荒廃とのあいだに、その身命を投げ出すことなのだ」というデュボア先生の言葉に代表されるように、作中では中々右翼的な主張が繰り広げられていますが、なんというか非常にアメリカン
 昔、「アメリカジンは原爆をただの、ものすっげぇ威力の爆弾としか考えていない」って聞いた覚えがありますが、本書では歩兵の手持ち武器に原子爆弾があって、しかも放射能とかあまり言及されないまま使われている。
 主人公は終盤に被曝しますが、それは異星の環境に晒されたせいですし、特に障害も負ってません。そんな所にもとってもアメリカンを感じました。ま、それはともかく……。
 古典というだけあって、読んでいると「あ、あの作品はこのへんに影響を受けたのかな」と感じられる箇所もあったのが面白い発見です。
 ガンパレとか、この話をもっとマイルドかつ若年層向けに仕立て直して今風にしたんじゃないの、とか(まあ軍事物だから似通ってしまう部分は仕方ないのかも)。
 それと、ガンダムの元ネタと呼ばれることが多いですね。単にモビルスーツが元々人型兵器じゃなくパワードスーツのはずだった、程度のもんですが。個人的にはネオドッグ関連の設定をもう少し詳しく見たかった。
 さて、当然本書に影響を受けたSF小説も多く出ています。『終わりなき戦争』はちょいと手に入りませんが……代わりに2000年版宇宙の戦士とも呼ばれる『老人と宇宙』をゲット。
 でも次は川又千秋『火星甲殻団』読もうと思います。貸出期限あるしね。