関 よしみ『マッドパパ―関よしみ傑作集』

マッドパパ―関よしみ傑作集 (ホラーMコミック文庫)

マッドパパ―関よしみ傑作集 (ホラーMコミック文庫)

 傑作集も四冊目、この調子で五冊目も出ないかなと期待いたしますぬえやです。
 それにしても今回、マッドとつくタイトルと受験シーズンネタが多めだなあ。

マッドパパ

 ヘンなの…… お父ちゃん笑いながらおこってる……
 最初の段階で市長が怪しいなーとか思っていたら、カウンセリングを受けた人たちが案の定おかしなことに。お母さんの手はあの後どうなったんでしょうか(コマとかで隠れて見えない)。どんだけよく切れる包丁なんだ。
 落ちの新自警団結成はちょっと意外でした。リアリティという面ではやや苦しくて、あ、それやっちゃうのかと。でも美加ちゃんのこととか伏線はちゃんと敷いてあるので、話としての破綻はないんですよね。
 ただ、一番怖いのは微妙SFなネタよりも、お隣の騒ぎ(妻に蒸発され酒乱の父親が幼い娘を虐待)に我関せずで、関わりにあいになろうとしない母の反応だったりします。
 主人公も美加ちゃんの世話を押しつけられた時は厭な顔をしていましたが、ああもきっぱり無視を決め込まれるとなあ。子供が理不尽にいじめられるのだけは駄目です、特に子供同士とかじゃなく大人からになんてね。

マッド・ストーカー

 ほんとうに愛してるなら…すべてを キミの体細胞の中のミトコンドリアまでも愛せるハズだッ!!
 ストレートなタイトル通りの内容。主人公の花蓮が中々可愛らしく描かれていて、ストーカーがつくのも納得(笑)。しかしドロドロの人間関係ですね……。
 主人公が彼氏とラブラブの描写にわりとページが割かれているので、ホラー漫画が少女漫画内のジャンルとして位置づけられていることが思い起こせる作品でもあります。
 しかし親友があんなことになったり、彼氏が焼け死んでしっかり焼死体になってたり、さすが容赦なし。

マッド・サマースクール

 10人全員でここに集まっとったらなおさら暑うてうっとうしいのに みんな1人になるんが怖いんや……
 どんなエリート気取っとっても どんな勉強がよォできても……
 みんな同じや 弱(よ)おて さみしいんや……

 受験戦争を勝ち抜くべく、夏期講習に参加したものの、ハイテクビルに閉じ込められ乾きに苦しむはめになる、というお話。
 平成八年の作品だけれど、このころから猛暑猛暑って言っていたんだなあ……。小学生ぐらいの時に一度読んでいたので懐かしいことしきり。私の中でパニック物のホラーは関よしみ漫画が原風景なんだなあ。
 冒頭の暑さにやられて暴れた男の話は、ホラーらしい誇張表現だと思っていたんですが、昨今はあながちそうとも言えない現実が怖い。
 その中で浪人生で関西弁の兄さんが最後まで人間性を失わず、ヒロインに「高価なキス」をするのが中々白眉なんですが、それがあっけなく無に返るラストのページが……。ああん関さん意地が悪いいいい(褒め言葉)。
 あと、「壊れた狂室」の藤巻先生そっくりの数学講師がいたんですが同一人物? たまたま似ていただけかもしれませんが(あるいはスターシステムか)、あの女子中での事件の後、こうした形で報いを受けたと思えば、それはそれで。
 いやまあ他の閉じ込められた人たちに罪があるわけではないんですけどさ。

ウィルスの牙

 バカねェ 仁美 親が子供より先に死ぬのは当たり前のことなのよ あなたさえ無事なら……
 新型インフルエンザが流行し、死傷者続出で街がパニック!
 この作品も平成九年のものですが、後書き漫画でもやっぱり豚インフルエンザの言及がありました。私も読みながらそれ思い出したので、ちょっと別の忌みでぞぞぞー……っ。つか、冬にもういっぺん流行来るらしいしね……。
 風邪に関する様々な豆知識も入ってちょっとお得? 主人公一家の家族愛が素敵。
 確か関作品だったと思いますけれど、他にもこういう感染パニックの話があったような。
 スレで聞いたらタイトル分かるんでしょうけれど。町が自衛隊に閉鎖されたりして、出ようとする人が射殺されるんですが、この話だと「あたしたちどのみち死ぬのよ」と血を吐きながら襲いかかるので恐ろしさ倍増です。

甘い蜜の罠

 お金で夢は買えやしないんだ!!
 宝くじで一億を当ててしまった一家が人生を狂わされるでござるの巻。
 予想通り、みんなみるみるお金を使って、最後は借金が残り、主人公以外の家族はあの豪華な生活が忘れられなくて……という話なんですが、そこに夢のために専門学校へ行って頑張る主人公を絡ませる。
 こうやって対象読者の目線を取り込むのって大事な技術だよねと思わず我が身を振り返る。
 吉良おばさんって怪しげだと思ったらやはりその道の人っぽくて、ラストお母さんのニタニタ笑いが恐ろしい。

鮮血の法則

 だって仕方ないじゃん! あたしB型なんだモン!
 ページ数が短いこともあってか、ちょっと物足りない感じの話。
 B型だけが感染するウィルスはついでで、日本人がはまる血液型占いを揶揄しているような内容。この主人公は少し極端だけれど、少なからずこういう人は、身近にいそうですしね〜。

裏切りのダンクシュート

 ひ…人の命よりもたいせつなモノなんてきいたことないよッ!!
 スポ根をホラーに直すとこうなった、という見本のような作品。
 明らかに異常な教師*1を、主人公の姉ふくめバスケ部女子が皆慕っているあたりは「壊れた狂室」のような展開を想像しましたが、それとは別の着地点に持って行ってくれて面白い。
 ただ、あの教師が何のおとがめもナシだったのは納得がいきませんが。あれは最後頭カチ割っておかないといけないんじゃねーの。主人公は最後一線切れたんだろうなあ……。
 部員が死んでも、それが公表されてインターハイどころか廃部。そうなることを恐れて秘密にしようとする部員たちや姉。主人公は人の道を説きますが、「死んだのがあたしだったら インターハイがおわるまでパパやママにはぜったい ないしょにしといてほしいものッ」などと丸め込まれ、なんかイイ話のように見えてくるのか非常に厭w
 あと、マネージャーの「虚弱体質」発言って「並の健康体じゃ練習についていけない」という伏線なんですね(関よしみスレでの指摘)。確かに並じゃ死ヌわな……。ジョーのあれは脳内麻薬の事故?

血染めの美学

 あんたバカじゃないの!? 緑なんてあのまま殺されちゃえばよかったのよ!!
 のっけから版画用プレス機で女子高生惨殺! とホラーらしいショッキングな始まり。
 今回は壊れた狂室が教師と生徒から、部活の先輩と後輩に変わったバージョンというところか。ネタが数学じゃなく絵画なので、関イラストレーションが楽しめるのもウリか。勇輝先輩の絵、カラーで見てみたいですね。
 しかし痛い自殺って成功しないものなんですが、皮剥自殺とか人類最高難易度の死に方じゃなかろか。
 あの自殺、死体解剖見学が伏線になっているんですよね。サマースクールで智湖がちまちま主人公に嫌味な態度取っていたり、細かい伏線がちゃんと巻かれているから、関作品は完成度高いです。
 勇輝先輩は死体萌えの感動で絵を描き上げる変態なんですが、絵がうまくて美形だからモテるとゆーなんだこの理不尽。
 そんな先輩に喜んでもらえるため、少女たちは恋のしのぎを削るのですが、最終的に先輩がヒいてしまう展開を予想していたらそうでもなかった*2。げげげ。
 あ、赤ちゃんは、赤ちゃんだけは許してあげてえええ。
 しかし新聞記事の新たな二遺体……って、姉と胎児も小島さんのせいになったんかな(どうやったんだ)。

*1:今の学校をクビになったらもう再就職口がない、すぐカッとする癖がある、目つきがヤバイ、怒っている時のブルブルという痙攣がいかにも危ない。

*2:いや、これも一度小学生の時に読んだんですけれどね。