K.W. ジーター『ドクター・アダー』
あいつの血だ。父親の血だ。ぼくの血と同じだ。血の絆か、加わって、あいつといっしょになってもらいたいんだ。あいつになってもらいたいんだ。この闘いに勝ったら、永久に生きてもらいたいんだ。
「違う」
「あんたが死ね──ぼくはいやだ」
- 作者: K.W.ジーター,黒丸尚
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1990/12
- メディア: 文庫
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が、このドクター・アダー。うーん、面白いのか面白くないのか分からん、が、面白いような気はする。
とにかくすぐ男女がまぐわう、セックスシンボルが出てくる、百数十ページすぎたあたりから、ババーッと人も死ぬ。ぱっと場面が変わったら主人公がいきずりの女と一発キメている。
人に勧められるかと訊かれたら、ノーと言うしかない。そんな作品。それはミセス・グランディ(世のうるさがた)的な理由じゃなくて、まあもっと根本的にストーリーの分かりづらさやなんやかんやだったりする。視点変更も多いし。
話としては近未来のロサンゼルスが舞台で、リミットとアダーという主人公がいて、彼らがモックスという男と対決するとかそんな感じ。アダーという名前の由来であるドラッグ・ADRの懇切丁寧な解説とかそういうシーンはあるものの、イマイチ説明不足に思えるシーンも少なくない。フィーニクス卵牧場のニワトリが、私たちの世界のあの小さな生き物とは異なる、もっと巨大で異形の存在だとしばらく気づけなかったのは、私の読解力不足なのだろうか?
とはいえ、アダーが揮う手術メスによって肢体切断者を始めとする異形の娼婦溢れるロサンゼルスは、魔境の魅力に満ちた都市でもある。現実としてはすごいイヤですけれどね。露悪的な魅力というか。
「LAの女は品がない」ってまったくその通りで(だがリミット、君が言うな)。
にしてもこの作品、72年に完成したけれど、内容が過激すぎて79年まで出版することが出来なかったそうで。まあ今の時代に読むと、そこまで過激とは思わなかったんですが(人はよく死ぬけれど、バラバラに吹っ飛んだ死体のすぐ隣で主人公が脱糞するとかはおおっと思ったけれど)。七十年代の作品、と考えると先鋭的だったのかも。
ただ、アダーは魅力的なキャラだなとは感じましたが、あんなに崇拝されるのはよく分かりませんでした。アダーがLAで開業して、ADRで人々の隠された性欲を暴き、その通りの形に人々を切り刻み、支持を得ていく……そんな黎明期のエピソードでもあれば良かったのですが。あと閃光(フラッシュ)グラブの活躍が少なすぎて残念。
リミットとその父レスター・ギャス、アダー(最後まで本名出なかったなこの人)とモックス、二人の主人公それぞれの因縁が決着する様は興味深く見られました。終盤のこの盛り上がりがあったから、最終的な評価にプラスできたというところ。
あとエンディングのシメも好き。個人的には、アダーの過去編があったら読んで見たいですね。
……SPSに連れて行かれたライル、どうなったんだろ。