関よしみ傑作集『マッドハウス』
- 作者: 関よしみ
- 出版社/メーカー: ぶんか社
- 発売日: 2007/09/05
- メディア: 文庫
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大筋だけ抜き出すと、ホラーにありがちなようではあるけれど、そこを迫力ある演出と描写で説得力ある内容に仕上げていて、どれも読み応え充分。まあ、中には「これより他に収録する物あるでしょ?」ってやつもありますけれど……。
マッドハウス
「ううん……ちと塩気が足りんかな? これこれ」
(おろし金で指をすりおろして、魚に血をかける)
「うん うん これじゃこの味!!」
表題作。主人公の隣に引っ越した人は、一家丸ごと狂ってしまうという話。普通なら「住む者すべて狂う家に主人公一家が引っ越してきて……」ってほうが定石に思えたのですが、隣が狂っていくことでいちじるしく迷惑をかけられるのだか恐ろしい。
おまわりさんは「大変だねえ」とは言っても「マア相手は病気なんだと思って」で済ましてしまいますし。
挨拶しただけなのに「ぶっ殺してやる」と怒鳴られておっかけられたり、日記を勝手に読まれたり、いやはや大変。ただ、女装したパパや便を垂らしながら帰って行くじいちゃんなど、ぶっ飛びすぎてもはや笑えてくる部分もありますが。
愛の墓標
「左上腕切断ー!! 略して……左切(させつ)!!」
自分の記憶では、これが初めて読んだ関作品。晩年まで愛を知ることのなかった富豪が自治体とテレビ局を買収し、真実の愛を持つカップルを探して、激痛のデスゲームを繰り広げる……って感じの内容。
人が鮫に食われたり、腕を切断したり、火あぶりにしたりするわけですが……わりと、直接的シーンは画面から外して、意図的にグロを抑えていたりします。まあ、それでもショッキングなシーンの連続ではあるんですが。
でも、そうやって適度にストーリーに集中できるようにしている「技術」が光る作品だと思いますね。あと、司会の石神も結構イイキャラしているし。おもに悪趣味なギャグとかが。
納得がいかないのは、腕切断を耐えたヒロインが最後ああなっちゃう所ですが。男の子のほうはちょっと黒い笑顔があったから、まだああなるのは分からんでもなかったんですけれど。
壊れた狂室
「脳に直接電気刺激を与えて 公式を完璧に自分のモノにするのよ!!」
女ばっかりでちょっと鬱屈気味の女子校に、性格はきついけれど美形の数学教師がやってきた! 頭の良い女が好きという彼に気に入られるため、クラスでは猛烈な競争が開始される。マグロの目玉弁当もそうですが、人が死んでいるのにDHAの解説する先生と、それにおおーと歓声をあげてる生徒たちの図がかなりシュール。
孤独な激痛
「おだまりなさい! 痛みを感じるからって何をエラソーに…」
「テレパシー的なもので、他人の痛みを自分の物として感じてしまう」という、ダントツに嫌な超能力を持った少女の話。そして痛みを感じられないマジキチな女医さんが登場して、さらに恐ろしいことになったり。
人が周りで怪我をするたびにそれを感じてしまうのに、周囲にまったく理解されない主人公が本当に見てて辛いです。でも、人体実験されたホームレスのみなさんが、わりとトラウマもなさげに回復しているのはどうなんだろう。
オーロラが殺す
「うわさやデマにまどわされるなッ
電車も車も止まってんのに……テレビもラジオも電話だって通じないのに どうしてわかるんだッ」
東京になぜかオーロラが発生し、それに伴う磁気嵐で電化製品が狂いだして……基本的なパニックホラー。
教訓は「いい加減な情報にまどわされちゃいけないよ」ってことで一つ。ちょっとエコロジーな落ちが説教臭いといえばそうか。
しかし途中経過はやはり関よしみ。
彰くんの母死亡→商店主殺害→父親の遺骸に取りすがって泣く幼女→彰自殺の流れとか悲惨。
タイム・リミット
「みんなで一緒にY2K問題を真剣に考えましょう!!
もう時間がないんですッ間に合わないんですッお願いッどうか信じて下さい!!」
Y2K、すなわち「2000年問題」をネタにした、非常に時代を感じる作品。
ただ、2000年問題によって起こるパニックではなくて、何か起こるかも! という不安に振り回される人々を主題にしているので、今見ても古くささがない(「Y2Kって何も起こらなかったじゃん」って風にならない)。
最後に2000年が来た瞬間で終わりになっているので、その後に想像をめぐらせられるエンディングもいいですね。
霧の底
みんな…泣いてる…泣いてるけど…
一日わずかなの水じゃ涙なんて出ないん…だ…
孤島に流されて……という、やはり典型的なシチュエーションのホラー。
目が小さく、線が細く、これだけ他と画風が変わっています。
島にあるのはひたすら鳥とその卵だけ。この島で生き延びる方法はただ一つ!
ラスト付近のゆっくり進むコマ割り、変わり果てていく石倉君の姿と、それを見つめるヒロインが切なかったです。