SF考察・アレルヤとハレルヤの謎


 作中での扱いが悲惨なことになっている(画像参照)アレルヤですが、鵺屋台は最後まで彼を応援し続ける所存です。
 さてSF考察第二回、今度はアレルヤとハレルヤという二重人格の謎に迫ってみましょう。いきなりSFから外れるようですが、彼らに関してはGN粒子と脳量子もまた避けては通れぬ話題なのでご容赦いただきたい。


 ガンダムマイスターアレルヤは二重人格という設定のキャラクターですが、一期00におけるその描写は多分に漫画的なもので、「フィクション的な二重人格」と解釈されてきました。が、それをひっくり返したのが公式参考資料集『300 YEARS LATER -ガンダム00が描いた300年後の世界-』。なんとこの資料中では、アレルヤが「解離性同一性障害」として記載されているのだ!
 障害の記述自体は特に間違いではないのだが、アレルヤに当てはめるのはなんか違う気がする。脳量子波措置の影響で生まれたから特殊な人格形成になっているとか書いているんですが、迷惑だから控えて欲しかったというのが個人的な所見。
 しかしまあ、ぬえやはこう思います。アレルヤ解離性同一性障害って誤診じゃね?
 CBは存外大所帯の組織なので、医療スタッフの中には精神科医やカウンセラーもいることでしょう。宇宙空間で長期間活動するなら、そのような技能を持ったスタッフも必要になると考えられます。で、アレルヤがCBの精神科医に診察を受けた際、悲惨ともいうべきその境遇とハレルヤの存在から、このような診断が下されるのは致し方ない流れ。


 しかし、なぜアレルヤが解離性(以下略ではダメなのか。
 ここでは一旦、アレルヤの二重人格を現実の病気に即して考察してみよう。
 解離性同一性障害の発症は主に幼少期だ。上は12歳から下は3歳まで、アレルヤがいつから機関に在籍していたかは不明だが、脱走時の年齢からハレルヤ形成は10歳以前である。人間は、逃れストレスに長期間晒された時、現実逃避によって自己防衛を試みる。「今辛い目に遭っているのは自分じゃない、知らない別の誰か」とか、「痛くない痛くない」といった自己欺瞞を繰り返すのだ。その結果、本当に痛みが消えてしまったり、自分が自分ではなくなるといった現実感の喪失が発生すると、それはもう「解離」という病気となる。幼児という物は、こうした解離性が成人に比べ高い傾向にあるため、解離障害は子供時代に発症するのである。
 28人のビリー・ミリガンは有名だが、虐待が長期間に渡れば、それだけ人格は断片化されていく。稀な例だが、三桁を数える人格分裂の例もあるのだ。アレルヤに別の人格が発生した経緯は想像に難くないだろう。
 ただ、いわゆる「二重人格」のように、主と副二つの人格しか存在しない(交代しない)例は、この障害では少ない傾向にある。アレルヤがCB加入後に障害の診断を受けたなら、その後の治療過程で「統合」されて、ハレルヤが残ったのではないだろうか。
 人格の統合はその昔、「交代人格に自殺のまねごとをさせて、死んだと思わせることで消す」という方法を取っていた。しかし他人格は「必要だから存在している」のであって、無理強いして消してしまうのは患者の心に悪影響を与えることになるし、根本的解決にはならない。
 そのため現在の治療法では、他人格との共存を目指すことが多い。前述の「解離」が進むと記憶障害を起こすのだが、こうした記憶の不共有が、それぞれの人格が勝手な行動を取って迷惑をこうむるという状況を生み出す。知らない間に、誰かと友達・恋人・敵になっていたりするのだ。たまったもんではないだろう。
 しかし逆に言うと、必要のなくなった人格は消えても問題ないわけでして(つまり、正しい統合)。ハレルヤはアレルヤに必要な人格だから存在していたのでしょう。日常生活はアレルヤ、戦闘はハレルヤにしておくとなんかうまく行きそうな感じ。しかもハレルヤのほうが能力高いみたいですし(人格間で能力が嗜好や特技に違いがあるのはよくあることです)。
 また、アレルヤハレルヤが通常の解離障害ではないとされる点として、「人格同士で会話している」との指摘がありますが、これはそんなに問題とは思えません。稀ですがそういう事例は存在するのです。そも、多重人格の場合、多くの人格は表に出ていないときは、年長の人格が年少の人格を世話したり、みなで問題のある人格を閉じ込めたりと、主人格の知らないところで自分達の社会を作っていることがあります。人格交代さえ起こさなければ、ハレルヤの存在は他人格症候群(普通の人が価値観や感情と捉えている感性が、まるで自分以外の人格を持っているかのように感じる状態。『オイレンシュピーゲル』の陽炎がこれに近いと思われる)でFAだったのですが。
 また、一期最終回ではハレルヤは脳損傷が原因で消えてしまいました。「そんな理由で消えるとかありえねー」と当時散々言われたものです。ぬえやもそー思います。また、ハレルヤの象徴である金目は左なので、左の傷で死んだように描写されちまいましたが、人間の脳と体は左右が逆になっています。つまり右脳が左半身、左脳が右半身を司っているので、脳損傷が原因ならアレルヤのほうが消えているはずです。
 ただまあ、前述のように「自殺のまねごとをさせて他人格を消す」のと同じ事がこの場合に起こったのではと考えることもできます。アレルヤとハレルヤに「脳と体の左右は逆」という知識がなかったため、ハレルヤが「あ、オレ(ら)死んだな」と認識(勘違い)してしまったため、そのまま消えてしまったとこういう訳です。
 まあ二期であっさり復活してこの仮説は無意味になったんですけれどね!


 というわけで、アレルヤ解離性同一性障害であると考えるにはやはり無理がありました。では、彼らはいったい何なのか? そもそもオフィシャルファイルその他では、アレルヤとハレルヤの人格がそれぞれ左脳と右脳に宿っているような扱いをされているようだけど、それどんなトンデモ系?
 いいや、負けない! ぬえやは「分離脳」仮説をここで提示します。
 人間の脳は、左脳と右脳の間に「脳梁」という器官があり、これが左右の情報交換を常に行っています(だから、人間の左半身と右半身はバラバラに動いたりしません。情報が共有されているのです)。で、パーキンソン病てんかんの治療(悪化の抑止)のため、稀ですがこれを切断する手術が行われます。こうして左右の情報共有が出来なくなった状態を、分離脳と言います。
 で、眉唾モノですが、この分離脳には左右で別々の人格が宿っているという説があるんですね。まさにアレルヤハレルヤなんじゃないかと。もちろん、脳梁が切断されたままでは日常生活に支障をきたします。本を読もうと思って(言語を司る左脳)左手で本を持っても、文字の読めない右脳は本に興味がないので、自分が司っている左手にそれを置くよう指示してしまったりという具合に。これじゃMSの操縦どころじゃありません。
 そもそも、なぜアレルヤ脳梁を切断されなくてはならないのか。
 そりゃ決まっている、人体実験施設・超人機関の仕業でしょう。彼らは大量の孤児を集め、使い捨てにしてはより良い超兵を作ろうとしていました。ならば脳量子波措置一つにしても、様々なアプローチがあったはずです。アレルヤはその一つとして、「脳梁を切断し、代わりに脳量子波で右脳と左脳の情報交換を行う」実験に使われたのではないでしょうか。
 んなことやるぐらいなら、グリア細胞と一緒に脳梁を肥大化させたほうがいい気がしますが、肥大化の限界とか手間とかコストとか比べて、脳量子波に落ち着いたんでしょう。で、いざやってみたら、それまで大人しく従順だった(過去回想から推察)被験体E-57に凶暴な人格が発現! このやり方じゃダメだね、廃棄→脱走→今に至る、という案配。
 まあ分離脳で別々の人格が! って怪しい話ではあるんですが、情報が共有されないことで違う記憶が蓄積され、それぞれ微妙に人格が異なる成長をしたら……とか思うとありかもしれません(く、苦しい。苦しすぎる)。


 最後に、GN粒子や脳量子波と、ハレルヤの関係について。どっかでハレルヤ=アレルヤの脳量子波説を見た気がするんですが、それだと脳量子波が色々とアレすぎるんで勘弁。とりあえず外科手術的脳量子波でも、GN粒子との親和性はあるようですね。
 小説ではハレルヤが脳量子波をソナーかレーダーっぽく使って、周囲の様子を探るという芸当までやってのけました。ソーマやイノベイターが同じ事をした描写は今のところないので、もしや彼ってトップクラスの脳量子波使いでは?(それ以前に「脳量子波はオレが遮断しておいてやったぜ」があるわけですが。あれどういう原理なんでしょう。チューニング?)

オマケ

 軌道エレベータやMSの装甲に使われているEカーボンがなんなのかずっと気になっていたんですが、あれってふわふわ(立方晶窒化炭素)だったりしませんかね。理論上はダイヤモンドより硬くてしかも軽いという超物質、現在では微粒子の精製がやっとこの。まあそれだったらCカーボンとか別の名前にしないといけない気がしますが、軌道エレベータの建材に出来るようなもの、MSの装甲に使えるほど大量生産出来るモノなのか……。