木村暢『機動戦士ガンダム00 (3)フォーリンエンジェルス』

　フラッグの力で勝ち取ったものは私の物。お前の物はおれの物！

機動戦士ガンダム00 (3)フォーリンエンジェルス (角川スニーカー文庫)

　グラハムが実はジャイアニズムの持ち主だったという驚愕の真実が明らかになった、ノベライズ三巻。
　今回は描写に色々と気合いが入っています。新しく明らかになる裏設定や心情補完など、アニメでは出来なかった部分こそこのノベライズの役割。もう二期始まって久しいですが、割と内容はお買い得だったかと。増版もされたし、結構売れているみたいですね（私も平積みコーナーで買った）。
　さて小説本編。文章がお行儀は良いけど描写というより説明的だなーとかいつも思っていたんですが、今回は終盤ということで心情描写も中々。特に負傷したルイスと沙慈、たった一人仇討ちに征くロックオンなどが白眉でしょうか。ずっと戦ってばっかりな上、アニメ本編ほど戦闘が面白くないので、真ん中あたりで飽きてきたのですが、ちょうどロックオン戦でそれが持ち直した感じに。
　確か次週あたりの00で「アロウズの新兵器メメントモリ」が出てくるはずなんですが、断末魔のアレハンドロがちょっと言及していますし。「メメントモリ建造計画に着手した」って。「建造」ってことは相当でかいようですが……衛星兵器だったりする？　宇宙規模にでかい大砲しか想像できまへん。
　ソーマ＝マリーが五感を喪失していたとか、アレルヤが拷問受けてたとか、テレビで出たり出なかったりした話がちらほら。面白かったのは、アレハンドロがリボンズをイノベイターと知っていたこと。そしてトリニティがリボンズの細胞から造られたということ。
　ぇー……つまりティエリアとは従兄弟とか兄弟？　で、リボンズは最低でも五年前まではCBにいた（00P二期）ので、トリニティはどう見積もっても五歳以下です。成長促進クローン（かつデザイナーベビー）ではなくて、874ボディ（現887）と同じ、生体高分子ブロックのボディなんでしょうか。ちゃんとオリジナル同様、脳量子波（ヴェーダへのリンク）を持って生まれて来れたのが、末っ子のネーナだけだったという。
　ラジエルは座天使（ソロネ）の長とも言いますし、死亡フラグ立ちまくりのグラーベ・ヴィオレント、その死後彼の機体がスローネの原型になったのかもしれませんね。まあリボンズがいるならヴェーダから設計図取れるかもだから推測ですが。アレハンドロが疑似太陽炉しか造れなかったのって、技術的じゃなく時間的な問題の可能性もありますしね（推測ばかりだが自信満々）。
　あと、ティエリアの正体にもぼちぼち触れられていて楽しい。自分の口で造られた存在ってこと言っちゃっていますし。こないだの8話で、「そんなことのために」のそんなこと、が実現しちゃっているのが哀しいなあ。
　さぁて、どこまでが本当の、イオリアの計画なのでしょう。
　トライアルシステムが、ガンダムマイスターを「試す」とか試練とか、そういうニュアンスのネーミングだと思っていたら、「裁判システム」だったことが分かって思わず笑いました。ナドレは死刑判決で、だから「万死に値する！」が口癖だったのかティエリアは。ただ、ティエリアやイノベイターが「感情を制御できる人間（感情のない人間）」ってのはもの凄い疑問ですけど。
　不安に恐怖に怒り、冷静なようでいつもピリピリしているのがティエリアでしたし。いざって時は抑制する機能があるとか、そういう風にも見えません。最初から脳の一部に欠陥でも作っておけば、実際に感情のない人間は作れるでしょうけど、それはそれで思考に問題があるでしょうね。どういう意味なんだろうなあ、これ。

「戦争がまったくなくてなおかつ人類すべてが豊かに暮らす世界はありえない。みんなロボットにしないとできない。イオリアがそれを望んでいたのだとすればそれはとても危険な話」
（アニメディア2008年9月号池谷プロデューサーインタビューより）

　イオリアの本当の目的が、人類を「感情のない新人類」にすることだった、とは考えたくないですね。むしろそうしようとしているのが、今リボンズがやっている計画で、イオリアが刹那たちに託したのは、それを止めることなのか……と思いたいところ。
　ただ、最終決戦グラハムが言う、愛についての講釈。

　愛とは人間の根源にして基底だ。すべての感情は、この愛から派生している。愛ゆえに人は喜び、悲しみ、悩み、苦しみ──そして、憎む。すべての感情の根源であるため、愛は容易に憎しみへと転化される。大きければ大きいほど、強ければよりいっそう強く。戦いとは、この愛がぶつかり合った過程、あるいは結果でしかないのだ。人が愛を持っている以上、争いが消えることはない。

　アニメでも少し語っていたのが、更にこんだけ加筆されているのは気になるところです。それならイノベイターとは「愛」を持たない完全で新しい人類であり、ティエリアは人間に感化され「愛」を知ってしまった愚か者になる……って感じですかね。人類総イノベイター化というか。あと、余談ですがフェルト。
　両親を早くに失ったフェルトは「愛情」と「愛」の違いがわからない。だから「嫉妬」もわからない。
　嫉妬が分からないのは単に鈍いか、経験が少ないかだけの問題だと思いたい……。つーか両親がいないから〜とかひでぇｗ
　二期ノベライズが出るとしたら、00Pで出た情報（イノベイターの詳しい解説や、ティエリアたちの製造方法）なんかも一緒に出てくるのでしょうか。マリー関連とか、小説版は色々黒い裏設定を補完してくれるのでありがたい限り。