遠藤達哉『TISTA』1・2

 私みたいな悪い子 死んじゃえばよかったのに


 この世界にはニンゲンがいっぱいいるのに 何で神様は私達を選んだんだろう
 塀の外の子達とそんなに違うのかな…? 私達そんなに悪い子なのかな…?

TISTA 1 (ジャンプコミックス)

TISTA 1 (ジャンプコミックス)

TISTA 2 (ジャンプコミックス)

TISTA 2 (ジャンプコミックス)

 ジャンプの読み切り作家として高クォリティを誇っていた、遠藤達哉の初単行本。
 少年誌掲載でありながら、青年誌の雰囲気を持ち、その作画も高レベル。物語は、ニューヨークの死神「シスター・ミリティア」という裏の顔を持つ女子大生・ティスタと、少年アーティーの出会いから始まります。
 キリスト教会系の秘密結社、法で裁けぬ悪を撃つ暗殺者、悲運の主人公──定番といえば実に定番なストーリー。
 だが、それら「定石」や「王道」がそうたりえるのは、やはりそこに旨みが凝縮されているからこそ。遠藤達哉の技術は、それら旨みを最大限に引き出して、魅せる。
 まず、ぱっと目に付くのは絵の美しさ。スタイリッシュな構図とコマ割りはまるで映画のようで、白と黒のコントラストも完璧。主人公・ティスタも可愛いやら綺麗やら、カラーページでは実にゴシックロリータだったりしますが、作中のさまざまな私服も地味に良い。そして何より、暗殺時の狙撃スタイル(黒尽くめにサングラス)も、漫画的なかっこうよさがある。
 正直、まずはティスタ萌(狙撃少女萌)で購入するのもアリでしょう。
 そういった見た目以上に素晴らしいのは、「キャラクターの生き様」。漫画であるからには現実よりもデフォルメされた人物造詣となるのは常ですが、そんな漫画の枠の中で、登場人物が「生きている」ことがひしひしと伝わってきます。それは、生気や元気に満ちあふれて「生き生きとしている」というものではなく、もがき、あがき、慟哭しながら抗う、「生き抜こうとしている様」がビンビン来るのです。とても力に溢れて、ひきこまれました。
 たった二巻完結で、連載時には駆け足展開で終了したことから「打ち切り!?」と騒がれたものですが、コミックで一気に読んでみると、うまく話がまとまっています。やはりしっかりしたプロットが組んであるのでしょうね。絵・話、センス、それらを見事に備えた凄い作家ですよ遠藤さんは。正直、この人の倍売れている某作家より巧いんじゃないかって……げふん。
 ま、ともかく。連載時に一度全部読んだんですが、雑誌は捨てていたので単行本で購入。一巻に銃の解説が載っていて嬉しかったんですが、二巻には十字眼(ゼロイン*1)の解説が入ってなくてがっくりです。
 銃に刻まれているのは、ラバルムですね。In hoc signo vinces(この旗印でお前は勝利する)。ネタが一つ混じっているけどw あ、あとカバー裏にも案の定ネタが仕込んでありましたね。ペトルス神父がツボです。
 正直三巻目ぐらいまで続いてくれたら嬉しかった〜という感じですが、二冊だけなのに、大作のような重厚感がある作品。月刊誌掲載ということもあるのでしょう、密度が濃いんですね。それでいて情報詰めすぎってこともなく、ちゃんと頭に入ってくるし、染みる。スージーとティスタのエピソードが、一番ぐっと来ました。次点はスカー君との天体観測。
 ただ、やっぱり思い返すと、スカー君の過去や、ラスボスを務めたのに名前も出なかった仇とかが気になる所存。スージーもあのあとどうなったのかな、アーティーともども面会に来てくれると思うのですが。連載が続いていたら、六話のようなギリギリバトルもあったのかも。今まで一方的にターゲット殺していたのが、あれで初めてピンチになりましたし。
 遠藤先生の次回作に期待! ……まずは四方遊技を買ってこなくてはね。

*1:零点規正?