内山靖二郎『クダンの話をしましょうか』

「ほら、足を踏みしめて、拳を握りしめて、胸を張って、顔を上げて、大きな声で答えてよ。あなたは誰なの!?」

クダンの話をしましょうか (MF文庫J)

クダンの話をしましょうか (MF文庫J)

 予言すれば死すべき定めの妖怪・件。その件である牛の角持つ占い師の少女・クダンを狂言回しにした青春小説。流れ星の例えとか、ヌエが書き込んだポエムとか、色々と若さに対して悶えるほど恥ずかしさを感じた当方は、やはり歳を食ったのだなあ。
 自分は誰なのか、他人に自分はどう見られているのか、孤独への恐怖や見つけて欲しいという自らも気づかない悩みなど、思春期特有の心理に、ドッペルゲンガーやクダンの予言といった、少し不思議な要素が絡みます。
 全三話の章立てになっており、各話の中心人物はそれぞれ変わりつつも、舞台や背景などは共通した、連作短編がごとき趣き。第一幕は色々消化不良を感じたのですが、第二幕はぐっと面白かった。
 第一幕では、つぐみの心理がいまいち物足りなさがあったんですね。知らないって言い切った時とか、あれ? って。何となく分かる気はするけれど、作中でも説明して欲しいな〜っという。教室に乗り込んでいくシーンは青春爆発でしたが。
 第二幕はドッペルゲンガーに翻弄される杏悠の心理の動きがサスペリアで楽しめました。ハラハラ感やスピード感が第一幕とは大きな差があったように思います。つぐみのそれはちょっと背伸びをした女の子とかそんな感じで私からすると、随分遠い人なのですが、二幕の杏悠は、今にも暗黒面に落ちそうな危うさなどが目を離せなくさせましたし。
 そして第三幕で、それまでの諸々の伏線を回収し、ドッペルゲンガーの正体に落ちがつく。そして序章に繋がるわけですが、全体的に構成の完成度が高いのですね。文章も改行が多いですがまあラノベでは問題がない範囲で、普通に読みやすいですし。
 ただ、双美の単語帳がなんでそこでその言葉っつー確信にいたるの? これも占いの一種じゃ? と疑問だったり、前述のつぐみなど、気になる箇所はいくつかありますが、まあ些細なことかな。二巻出ているのね、これ。
 読むとなんだかモンブランが食べたくなる一冊でした。