田中ロミオ『人類は衰退しました』3

 知らぬ間に 魔女にされてる 魔女裁判(辞世の句)

人類は衰退しました 3 (ガガガ文庫)

人類は衰退しました 3 (ガガガ文庫)

 遅めの感想。事前に「まっとうな冒険小説になっている」と聞き及びましたが確かに。しかも最後、しんみりしちゃったし。
 前回の計量スプーンでは自業自得も重なってさんざんな目に遭った主人公ですが、今回は事故も混ざって、本格的に最大のピンチを迎えました。
 国連の新事業『ヒト・モニュメント計画』の遺跡調査のため、主人公が住むクスノキの里に、一時的に電気がやってくることになるのが事の発端。
 電磁波を浴びると鬱を起こす妖精さんたちは「里帰り」と称して主人公に別れを告げてしまいます。妖精さんの力を借りられない不安な状況の中、助手さんとともにおじいさまと遺跡の調査に随行したものの、特に何もないはずの場所から遺跡の内部へ迷い込んでしまいました。
 遺跡の内部は巨大迷宮。さまよってさまよってやっとお外へ出ればそこは高層ビルのてっぺん。おじいさまと連絡はついたものの、救助手段はないので自力でまた戻るはめに。飲み水にも窮し、唾液が乾いてまともに食事もできない生活が続く……。
 やがて謎のスライムやロボット犬に遭遇するピンチの中、謎の猫耳少女P子ちゃんと再会し、てんやわんや。
 全体のページ分量が増えてますが、今回は絵師さんもかなり仕事していますね。折りたたみ口絵に「本書は『人類は衰退しました』の3巻目で間違いありません」と注意書きがしてあって吹いてしまった。情操教育のため助手さんが絵本を書くことなったのですが、その絵本が巻末に載っていたりします。ごちそうさまぁっ♪ 本文の余白にもちょこちょこイラストが混じりますし。
 サブタイトルは「妖精さんの、おさとがえり」ですが、「里帰り」するのは妖精さんだけではなく、そこんところがまた結構泣き所かと。最初軍用と見せかけ、でも見た目とか色々アレだからこれって実は子供用の玩具だったんじゃね? と思ったら意外なものが連中の正体でした。名前がそういう理由か……。
 しかしこの世界「ぴおん」が痛い名前として認識されるなら、やはり日本語が使われているのでしょうか。ティータイムを見るとイギリス風でもあるのに。
 にしても、かねてから「おじいさんは主人公である孫に厳しいなあ」と思ってましたが、ほんっと厳しいですね。最後の主人公の行動は、そりゃ怒るのは当然としても「……でも、本当はこういう訳だったんだろう?」とその理由に気づいていただとか、なんかフォローしている場面が欲しいんだけど、無い。嫌いなキャラじゃないんだけど、ちょっと今回は残念でしたねー。いやまあ、最後の最後で温情は出してくれましたが。
 今まで過去の人類の文明についてはあまり触れられてきませんでしたが、遺跡調査のお蔭で多少判明してきました。大断絶の正体も分かっちゃいましたし。塩基計算機なんてものまで作っていたんですね。魂も解明しているとか。今回は妖精さんの新たな特性(数が多ければ多いほど周囲がファンタジーになり、トラブル発生率が跳ね上がるが、反面、そのトラブルで死ぬことはない)も判明しました。……つか、妖精さんってどう考えても分裂して増えていますよね? これ。
 それと主人公が口癖のように「んまっ」と言うようになりましたな。こんなキャラだっけ……。
 小学館は漫画方面のあれやこれやで、ガガガ・ルルルの新人賞はこれから人が集まるのかちょっと心配になってきましたが、このシリーズはもうちょっと続いて欲しいなあと切に希望いたします。