沖永融明『イキガミステイエス 魂は命を尽くさず、神は生を尽くさず』

「ほんっと人間ってバカだわ。バカバカバカバカバカバカバカバカ、どいつもこいつも馬鹿の大安売り出血大サービス本日レディースデーだ馬鹿ヤロー。なんで命の有る無しでそんな一喜一憂しまくるんだブワァーカ! 大事なものは命じゃなくて『その命で何をするか』に決まってんじゃねーかブワァーカブワァーカ!」

イキガミステイエス 魂は命を尽くさず、神は生を尽くさず。 (富士見ミステリー文庫)

イキガミステイエス 魂は命を尽くさず、神は生を尽くさず。 (富士見ミステリー文庫)

 第六回富士見ヤングミステリー大賞・奨励賞受賞作。出版が平成20年ってなっているから、受賞から出版まで三年ほどブランクがありますな。そんなもんだろうか。ヤンミスは250枚以上400枚以内という規定が魅力だが今はやってなくて残念。400って長いよ400。
 読む前はザ・バックホーンの『美しい名前(病室で死んだ恋人を思う歌)』みたいな話かと思ってたら別にそんなこたあなく。
 物語は、白血病の妹(14歳)を抱える絵本作家の主人公(24歳)が、「あんた今日死ぬよ」と上記の台詞の主である『生神(♂)*1』に宣告され、死亡までの「執行猶予」をもらい、妹に最後の誕生日プレゼントを届けるというもの。
 ヒロインが白血病の妹──これだけで薄幸臭が漂ってきますが、そこに『ADHD(注意欠陥障害)』というものが更に被さっていて凶悪なことに。白血病である当の一樹(いっき)は、中々老成したイイ性格をしていて、前向きとも後ろ向きとも違う達観したさっぱり感があります。自分の不幸に酔っている面など欠けらもなく、逆に世の中の「知ったかぶった同情」と向き合う。担任教師の悪文とか生々しいにゃあ。決別シーンとかきついし。
 後半、主人公と妹が仲良すぎて危うい感じになったりもしましたが、基本は生と死の兄妹愛物語。
 主人公が死ぬことが物語の最初で確定しているので、単純なハッピーエンドにならないものの、すっきり締めている作品。まあ、あのエンディングは向こうからするとホラー以外の何物でもありませんけどね(笑)。一人称違うからそんな気はしていたが、最初と最後が繋がっているなあ。
 受賞した時には作者は17歳ということで、それでこの内容には驚いた。出版する前にかなり加筆修正したんだろうけれど、受賞した素のままの状態はどんなんだったんだろう……かなり読みにくそうと想像しますが。とにかく文章が、ラノベ的な旨みに満ちていて楽しい。一部読みにくさ、分かりづらさを感じる箇所もあったけれど、一個一個の表現に使い古された、人と似ないもの選んでいる。こういう文章は憧れますな。
 ヤンミスらしくキャラも魅力に溢れます。その壮絶な人生から14歳にして、倍生きている大人を完膚なきまでに精神的に打ち倒す強さを持つ一樹。一人称は「僕」だがヤクザっぽい口調と挙動+時にはまんまメンチ切る勢いで主人公に発破かける生神、サブヒロインのナース志恵さんなどなど。人外大好きの当方はもちろん生神さんに興味津々。どう考えても一人称が「俺」一択なキャラだのになぜか「僕」なのもそれはそれで。神様のわりに人間界の世情にも詳しいし(レディスデーだのディズニーがどうのだの。薬物も詳しいようだし)。ケレヴとかイピレティスとか設定は色々あるようですが全部出ないな……。「四十八代」がどうなったのか、生神とはいかにして生まれる/引き継がれるものなのか、気になるところも多いので続編を熱望したい。
 難を言うと、イピレティスのくだりが唐突な感じだったあたりでしょうか。主人公やヒロインガ「そういう人」だと言われても、事前にそれっぽいフリがなかった気が。大悟(主人公)のトラウマとか生神がそう言っているだけで、一切説明ないし。あと、「イルダーナフの二十四ページ」も、わざと隠しているとは分かっていても、ちょっと隠し方が分かりにくすぎというか。うーん。
 また、作品の絵師さんはかの「初音ミク」のKEIさんで、表紙やカラー中表紙の「生神」が素晴らしいです。白黒逆転燕尾服と赤眼と火縄銃。……が、それ以外のキャラの絵が、普通に萌え絵過ぎて残念な感じに。大悟とか24歳だしあんなショタっぽくじゃなく男らしく描いて欲しかったところ。中身を晒された志恵さんはいい具合だったけど。283pの挿絵だけはいただけない……逆に305pの絵は好き。
 次回作が楽しみな作家さんでございます。またお気に入りの一冊が増えました。

*1:死に神の亜種だから生き神。現人神ではないようだが…人間もなれるようだ。