峰守ひろかず『ほうかご百物語』

ほうかご百物語 (電撃文庫)

ほうかご百物語 (電撃文庫)

 第14回電撃大賞・大賞受賞作。自分の電撃原稿送る直前になって、作者が地元の人だと気がつきました。読んでみたら案の定、「何を考えているんだ滋賀県民」というくだりがあって吹いた。地元の本屋ではPOPつきでことごとく平積みにされており、職場まで明かされていて「おいおい」って感じですな。
 読む前にMixiのレビューで評価を確認したら「妖怪モノなんて新しい!」という感想が多くて眼を剥きましたが、これも時代の流れなのでしょうか。グループSNEの『妖魔夜行』シリーズと、タイトル変わって仕切りなおしの『百鬼夜翔』シリーズとか。冴木忍の『妖怪寺縁起』とか結構有名だったはずですけど、分からんものだなあ。
 内容ですが、美しいものを描くことにこだわりをもつ高校一年生(♂)が、妖怪だけど生まれて初めて見る物凄い美少女に「あなたを描かせてください!」とお願いしちゃったことから始まるドタバタ学園妖怪コメディ。話の導入がよく出来ていて「おっ」とか思ったんですが、実際まとまりのいい作品でした。
 ただまあ、まとまりすぎていると言うか、展開の先が割りと読めることが多いのが難点。伏線とか分かりやすいし、イタチさん(ヒロイン)の新必殺技とかすぐ分かっちゃったのに、それが明らかになるまでちょっと引っ張るし。まあ、ラスト天狗のオチだけはびっくりしましたが。あれって次巻で活躍するって前フリなのかな。
 主人公の一人称で語られるため、文体のノリが軽く、シリアスさは殆どないです。最後ヒロインが消えそうになってしんみりしても、まあ、なんというか、予定調和? ですし。物語的ご都合発動ってやつで。全体的に、悪くないんだけど凄い面白いってことはない作品。安定しているけれど、もっと尖って欲しい。
 また、妖怪モノ初心者に優しい設計なのも特徴。小豆洗いの説明を真面目に聞くことになろうとは。解説役の経島先輩の言や、『妖怪はロジックで動く』ルールとかを見るに、作者は結構知識持っているみたいですけれど、限りなく敷居は低い。その分、知識がある読者にはやや鬱陶しいと言うか「んなことまで説明すんの?」となるわけですが。九尾の狐とか風神演義にも出たのに。一方でロジックのルールは魅力的なんですよね、鬼退治でのアレは強引な気もしたが、面白いっちゃ面白いし。
 何にせよ、「ライト」ノベルに相応しい完成度の一品。キャラが読者に語りかけるかのように、場面移動の説明をする小ネタとか、若ければウケてたかもしれません、私。
 ただ、ヒロインのイタチさんの描き方が……。真面目なのはいいけれど、「普通のいい人、でも外見美少女」だから凄く良く見える、的なキャラで。まあ、正統派と言えば正統派ですが、描写が甘い気が。なにしろ語り手の主人公が彼女にゾッコンなものだから、いちいち動作の一つ一つに「美しい」「可愛い」と付け加えてうるさいったらない。同じ単語を連発するなら、もっと表現と語彙に気を使って欲しいものです。
 あとは、イラストがちょっと……。萌え絵とかいのぢ系統で苦手だったりします。特に稲葉先生の無駄に巨乳で胸開けすぎなのが気持ち悪い。まあそれは作者関係ないんだけどさ、見開きカラーの先生の絵だけは嫌なんだ。うん。