木村暢『機動戦士ガンダム00』1
機動戦士ガンダム00 (1)ソレスタルビーイング (角川スニーカー文庫)
- 作者: 木村暢,米山浩平,柳瀬敬之,羽音たらく,富野由悠季,矢立肇
- 出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング
- 発売日: 2008/04/01
- メディア: 文庫
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人を殺めるために建造されたモビルスーツ。
人の命を散らして平和を勝ち取ろうとする少年。
互いが矛盾した存在だという一体感。
テレビアニメ『ガンダム00』のノベライズ。作者は脚本の黒田さんやサンライズと関係があったことから選ばれたフリーライター。内容は、キャラクターの心情描写から設定まで、テレビに出なかった分が監督・脚本・SF考証千葉氏といった面々が徹底的に監修した『公式外伝』(ストーリーは本編ママなんだけどね)。アニメ本編の補完にはうってつけです。
ストーリーはアニメ1〜8話+12話、13話まで。ガンダム鹵獲作戦は2巻だから、アレルヤの施設爆破もそっちかな。
細かなシーンをすっ飛ばして、巧く話の内容をまとめています。詰め込みすぎと言うよりは、『ダイジェスト版』のおもむきですね。そして端々に「ああ、あの時コイツはこんなこと考えていたんだな〜」って描写が盛り込まれている。原作ファンなら充分に買いですな。
刹那のキャラは終盤になるまで掴みにくかったのですが、小説版では彼の内面描写もたっぷり入っていて分かりやすくなっています。
以下、箇条書きにつらつらと。
・挿絵 by羽音たらくさん
刹那とロックオン多目。見開きはコーラをぶっ倒すエクシアと、それを「フォーリンラブ」な表情で見つめるグラハム+ビリー&水着シーン。ティエリアは次巻予告のみ登場。アレルヤは……キュリオスの絵はあったが当人は髪の端がちろっと出ているだけな扱い。イアンのおやっさんはいるのにー。
・キャラ紹介&メカ紹介
出てくるものは全部紹介されているので結構な量。なんかアレルヤの顔だけやけにナルシーな表情なのはなぜ。ソーマも珍しい表情している気が。
・OPは少年兵時代の刹那から。ここは原作どおり。
・ビリーがAEUの新型お披露目にやってこれたのは、アイリス社に招待されたから。
軍と軍需産業の癒着という生々しい話。
・コーラ哀れ。
初登場時のあんまりな第一声にがっくり来ているうちに、原作どおりエクシアにボコボコに。彼の出番はそれだけで終了。入院シーンもないし、軍事演習は全体の戦闘シーン自体省略されているから、彼の出番はない。3巻か4巻ぐらいでジンクスが出たら再登場かな。
しかし、「ちょっと見た目かっこいい目の前のモビルスーツ*1がムカつく。だから倒す。スペシャルな感じで」という頭の悪さと、スペシャルスペシャル言いすぎなコーラは良いです。
・軌道エレベーターと静止衛星の解説
軌道エレベーター自体は全然スルーしていたり。静止軌道上という言葉の意味をやっと知った。
・待機中に鼻歌で北アイルランドの動揺を歌う兄貴。
そーゆー小ネタをもっと本編でも見たかった。
・戦術予報士は民間の職業。
軍における作戦参謀らしい。しかし、艦長がいないから参謀ポジがそのまま兼業してるって、どんだけ人材いないんだCB。
・アレルヤの同志=ティエリア
まあCBのメンバーは互いが同志なんだろうけれど、ちゃんと言葉にされたのって初めてのような気が。
・「世界の悪意が見えるようだよ」「人類は試される」
アレルヤとティエリア、台詞と表情しか出なかった原作のシーン。ここらへんに大幅に二人の心情が描写されていて興味深い。……しかし隣にティエがいるのに、堂々とハレルヤに話しかけるのはやめておけと思う。
同じように、ラストでエクシアを見あげる刹那の心情も描写が入ってたり。
・恋に落ちた少年のような瞳の男@グラハム・エーカー
「一曲踊ってくれるというのか。では、ワルツの時間と洒落こもう!」
「そうか、私とワルツを踊る気はないようだな」(エクシア初遭遇グラハム)
アニメだとコクピット内の独り言も、会話が成立しているように見えてしまいますが、小説版だとハムが独り言連発のおかしな人にしか。いや、元々そうだったんですけれど。以下小説版ハム発言集。
ハムが結構なバトルフリークであることがよく分かる小説版。つーかよく阿修羅とか知っているなあ。ビリーが侍に例えているから、意外と東洋思想に通じているのかもしれません。
セイロン島における、シンハラ人とタミル人の民族紛争は、武力介入後も終わる気配を見せていない。もし本気で終わらせようというなら、両軍を全滅させる覚悟が必要になる。だが、仮にそうしたとしても、新たな憎しみを人々の心に植えつけ、争いの種をばら蒔くことになる。(90p セルゲイ)
本編では介入後のセイロン島については言及されませんでしたが、実際はこうだったという話。ぬう、CB無駄骨。
戦いは非情だ。どんな崇高な理念があったとしても、貴様は我が領土内でやってはいけないことをやった。人命優先の戦いだと? 先の武力介入で既に我が方では百名を超える戦死者が出ている! (97p セルゲイ)
CBが掲げる理想と、それによって起こる現実。軍事演習の際にも、ニュースで間接的被害が報道されてましたし(小説版ではそのシーン削られてますが)。しかしセルゲイ中佐は渋い、乗り心地悪くて他所から「歩く棺桶」呼ばわりされるティエレンをこよなく愛し、「優美さなど不要!」と質実剛健の道をいきます。
・中佐にはアンドレイという息子がいるそうです。
奥さんどんな人だろう……。
・この時の沙慈はまだ知らなかった106p
えーと、この書き方だと、沙慈はいずれ刹那がマイスターだって知ってしまうって事ですよね。2期への伏線か。
・鍛え上げられた後背筋に邪魔されて腕を閉じられないアレルヤ。
なんか紹介の立ち絵とかで、こころもち腕を広げていると思ったらそゆことですか。
・「麻酔もなしで頭皮を剥がされ、脳を鉗子でいじられるような」「脳の表面を直接誰かに触れられているような」
脳量子波干渉の、アレルヤとソーマそれぞれの形容。脳に痛覚はないからちょっと違う気もするんですが、アレルヤの表現はなんか実体験に基づいていそうで怖い。
「おれを殺せ、アレルヤ……お前は生き残れ、マリーのために」139p
流れていく重力ブロックに対し、「どうでもいい」と憎悪を露わにするハレルヤと、それに対し反論するアレルヤ。そしてここで、「マリー」に関する回想が登場。ううむ、ちょっと長いから全部詰めるのはアニメで難しかったんだろうけど、最終回でマリーを出しちゃうなら、このシーンで一言なりとも入れて欲しかったと残念無念。この後の「宇宙を漂流するものの気持ちなんて」も、分かりやすくなるし。
この言いようだと、マリーとアレルヤはそうとう仲良かった感じですが、……公認カップルなのか、それとも兄妹なのか。アレルヤが孤児で研究所に入れられたってのはムックの公式情報ですが、ソーマがデザインベビーってのが微妙。本当にそうなら兄妹じゃないんだけれど、彼女の記憶は改竄されているっぽいからなあ。義理の兄妹でもいいかなとは思うけれど。
・人命救助したガンダムに複雑な思いを抱く中佐
このへん、本編より複雑度があがってるなあ。
・俺たちは、ガンダムなんだ170p
エクシアの追加武装をもらったころの、刹那の独白。最終回でのあの台詞が既にここで……。
色々あって最後に、ああいう言葉が出てきたのかと思いきや、前々からずっと思ってたんですね。
・シーリンさんはマリナさんの幼馴染みでした。
・刹那がマリナの話を聞く気になったのは、母親の声に似ていたから。
刹那い。
・エピローグに2期への伏線が。
Oガンダムの中のひとが登場。作られた存在である「少年」がヴェーダにアクセスしている……というのがティエリアっぽかったのですが、むしろこれはリボンズ? 奴はもとはガンダムマイスターだったのか、それともリジェネやネーナみたく他にそういう存在がいるのか。
あ、そいやこれで、Oガンダムのパイロット=ファーストガンダムのパイロット、になりますね。
あと、6年前にガンダムが動いているのってちょっと変なんですよね。本編でソレスタは行動を開始しているのに、なぜクルジスにだけ介入したのか。そして、この時Oガンダムにくだされたミッションは「戦場にいる全ての人命の排除」*2。どうも、今のCBの理念から外れている気がするのですが、現在のCB(プトレマイオス組)は、6年前とは違うのかなあ。
なんとも2巻が楽しみな小説シリーズ。11話は是非に刮目したいです。