一人称考察

 小説を書いていると、キャラを立てるための「口調の差別化」に困ります。登場人物全員が、それぞれに異なる口調を確立させているのが理想なのですが、油断すると結構かぶってしまうのが悩み。とりあえずは、「一人称」「二人称」「語尾」を整理し、明確に設定すればいいのですけれど……。
 そんなわけで、思いつく限りの一人称を以下に列記してみました。

【私】

 代表的一人称。学生時代には女性が多く使う傾向がみられるが、基本的に丁寧な語での一人称はこれで、性別・年齢関係なく広く用いる事が可能。
 表記は「私」「わたし」「ワタシ」。
 この変形で「わたくし」になると丁寧さが一層増すが、使用者はほぼ女性に限られる。これは「あたし(アタシ)」に変形した場合も同様である。表記は「わたくし」「ワタクシ」、「小子」、振り仮名つきなら「私」もあり。更なる変形で「あたくし」もある。

【あたい】(アタイ)

 私から派生した一人称。はすっぱで、すれっからしな女性が使うとされる。

【僕】

 元々は謙遜的な人称(一文字だけだとシモベとも読めますしね)。主に年若い男性(少年や子供)に使用されるが、若い女性もしくは少女によって使用されることで「萌え」を誘発する事も出来る。この萌え属性を「ボクっ娘」といい、その先走りは手塚治虫三つ目がとおる』のヒロイン・和都さんである事は有名な話。無論、元の使用法どおり少年キャラが使用するとショタ度の上昇にも貢献できる。オカマキャラの一人称としても適用範囲は広い。
 珍しいところでは、ADV『デモンベイン』シリーズ(PC18禁ゲームだが、PS2で全年齢対象版あり)に登場する妙齢の女性・ナイアが使用していた。
 表記は「僕、ボク、ぼく」。

【俺】

 乱暴で粗野とされる一人称。が、現実として肩肘張らなくていい場での男性諸氏の一人称としては、非常に使用頻度が高いと思われる。フィクションでも威勢のいいキャラに多い。俺という一人称が似合うキャラに、わざと違う人称を使用することで、ギャップ萌えを狙うことも可能。
 その派生で「ボクっ娘」同様「オレ少女」も存在するが、どちらも社会通念上、現実で女性が使用するには好ましくない。それを反映してか、この萌え属性には好き嫌い賛否両論である。
 表記は「俺、オレ、おれ」。辞書を引くと難しい漢字の表記もあるが、ここでは割愛する。
 ここからの派生で「俺様」があり、そこからさらに派生して「俺様ちゃん」「ボク様ちゃん」などがあるが、この辺になると使用は厳しい物がある。
 変形の「俺っち」は、藤崎竜封神演義』の黄天化、新城カズマ『狗狼伝承』の嵯峨明彦などの使用例が存在。

【おいら・おら】(オイラ・オラ)

 上記からの方言的変形。一昔〜二昔前の漫画やアニメのキャラには多く見られたような気がする。たとえば富樫義博HUNTER×HUNTER』のゴンなどは、連載時期が一昔遅かったら、この一人称になっていたかもしれない。「オラ」の使用で有名なのは、やはり鳥山明ドラゴンボール』の孫悟空であろう。

【おいどん】

 鹿児島方言。大概の方は西郷さんを連想すると思う。
 現実の鹿児島ではすっかり廃れた語であり、使ったりすると笑われると言う。これは「〜ごわす」も同様である。

【我】

 日常生活ではまずお目にかかれない、古風な一人称。主に神や悪魔など、人外の超存在などが使用する。
 表記は「我、吾、ワレ」など。漢字辞書を引けばさらにめんどくさい表記がある。「朕」「余(予)」も、我の意味がある(ただし、「朕」は天皇のみ使用可能な現敵的一人称である事に注意)。

【自分】

 軍人言葉を演出するには必須の一人称。国粋主義者や革命家、古風な熱血教師、運動部員などの使用例がある。

【儂】

 老人キャラ一人称。実年齢がむしろ子供であるキャラが使用すると、「ロリババア」「老娘」萌えとなる。
 表記は「儂、ワシ、わし」など。
 これの変形である「わっち」は『狼と香辛料』の狼神ホロが有名で、花柳界で使用された廓言葉から来ている。つまり、本来は神様が使用するには不向きな、身分の低いものが使用する卑称なのである。

【妾】(わらわ)

「我」同様、人外の超存在が使用することの多い一人称。別読みでは「めかけ」と言うだけあって、女性が自身をへりくだって言う語である。
 使用例は既出の『デモンベイン』のアル・アジフや、『封神演義』の蘇妲妃など。

【小童】(しょうどう・わらわ)

 見た目どおり子供の意だが、諸侯の夫人が謙遜して言う語である。「わらわ」と同義。

【ミー】(Me)

 外人キャラが使うエセっぽい一人称。これを使用するということは、そのキャラがエセ外人であるか、作者が適当にキャラを作っているかのどちらかだと思う。
 大抵、対となる二人称は「ユー」(You)。
 英語以外の多言語では、「イッヒ」などがあるが、あまり使用されない。

【うち】(ウチ)

 関西方言の一人称。通常、女性が使用する。関西弁キャラにはほぼ必須だが、関西人も結構「私」とか言っています。
「あちき」はこれの派生……なのか?

【我輩】(吾輩)

 博士・学者キャラ系一人称。昔の書生も使っていたらしい。
 字義的には「われわれの仲間(ともがら)」の意だが、同時に「わたし」という意も含むので一人称となる。現実で使っている人がいたら(その人が見識深い学者か何かでもない限り)ちょっとお近づきになりたくない。使用例は夏目漱石我輩は猫である』が有名。

【小生】

 書生キャラ一人称。未熟者、後輩、初学者などを指し、そういう人物が使用する。
 小は謙遜・卑下に多く用いられるため、このテの人称は多い。他に「小職」「小官」「小弟」などなど。

【拙者・拙僧】

 拙とつくように、自身をへりくだって言う語。前者はお侍、後者は僧侶が使用する。時代劇では頻出するが、現代モノでは敬遠すべき。
 代表例は和月伸宏るろうに剣心」の緋村剣心など。

【それがし】(某)

 上記同様、お侍・武芸者系一人称。元の字義は「名前のはっきりしないもの」「わざとぼかして言うときに用いる語」であり、「名乗るほどのものではない」的な謙遜の意が込められているようである。

 私が分かるところでは大体こんなとlころかなー。
 ただ、一人称で検索していると、ウィキペディア日本語の一人称代名詞という項目があって、非常に充実した内容だったので、そっち見たほうが早いよね!
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■おまけ【やんぼー】

 特殊な一人称。一人称なんです。漢字表記は不明(多分ない)。
 原義は『回廊』の黄色い家鴨が知っていると思います。
 使用例:

「やんぼが、ぐるってんであった」