ホラーM2008年03月号

 今回は面白い作品が多く、強烈な号でした。ランヤ! ランヤ!
サタニスター(三家本礼)
 おおっ、これぞ三家本礼! と思ったハイテンションな回でした。いちいちダサげな台詞がハマってて、一回りして格好いいというか面白い。
 マタニティ・レッドの目的とか、伊看崎が哀れすぎたのですが、後半の展開でそれが更にすっ飛びました。
 マジェンカいい子でしたね……。
「幽骸は有害!!」「つまんねーんだよ!!」このやり取りであのシーンとかそのナンセンスさがいかにもだ! しかし毒壷ガールズのトップスリーがあっけなく全滅しましたね。まあマーズもさらっと死んでたしなあ。
哀族館(大橋薫
 え、最後、その落ちでいいの? 衰族館ってそゆ仕事もしてたのか……。それ自体はホラーだったんですけれどねえ。
 女がドロドロなのはまあいつも通りとして(前回はそのへんがいまいち物足りなかった)。男が悪いのは分からんでもないけど、彼女にも何か報いがあったほうがいいんじゃないかなあ。ダメだ何か足りねえ。
しりこだま(柳田やなぎ)
 猫の葬式でデビューした新人さんでしたっけか。前回より絵も話も粗い印象です。
 日本古来の、自然に根ざしたネタが得意なのだろうなと思ったけれど、それを生かしきれていない気がする。
 男の子の正体とかすぐ当たりがついたし、先が読める感じだったんだけれど、そこからどう落とすのかと思ったら、先読みできてたところまでで終わって「えっ?」。なんとも尻切れトンボを感じる終わり方でした。つかそれでいいのかよ、ホント。
花と虫(生熊尚)
 こちらも新人さん二作目。サイト開設して絵を掲載しているようですが、めっちゃ怖いようですな。見てないけど。
 非常に細かい書き込みと、多用される点描などで濃厚な絵を描く方で、もう絵の時点でホラー漫画! って空気を出してます。
 ストーリー自体は、家でも学校でも苛められれている少女に救いの手が……というありがちなネタでしたが、落ちのトボけたナレーションがいい味出してました。煽りの祝辞に不覚にも笑ってしまう。難点は、コマ運び(ストーリー進行)がやや急ぎすぎというか、スピードと話の流れが合っていない感じがしました。
KATANA 頼みの刀(かまたきみこ
 単品で見ると面白いが、雑誌内のラインナップ的には浮いている感じのシリーズ。マイルド好みの読者向けなのかな。
 最後の大活躍っぷりがちょっと「うーん」でしたが、ちょい不思議ホームドラマという感じで楽しめました。今市子さんの『百鬼夜行抄』みたいな。
ミスミソウ押切蓮介
 あいも変わらず痛々しい姿でしょーちゃん登場。おじいちゃんの独り言が物悲しい。
 相場君も久しぶりに出番が多かったものの、ろくに春花とコンタクトも取れない様子。おじいちゃんの引越し宣言は、当然のことといえ転機ですね。
 今回の犠牲者は、前回に引き続き久賀君。これまでのお約束どおり、死ぬ前に心情描写が出るわけですが。
「あの女が俺達のバランスを壊した」って、バランスが崩れた途端ここまで過剰な暴威を振るうこの人間関係は、最初から毒を含んでいたのではないか。実際、最大の敵となるであろう狩猟コンビはそんな感じが濃厚に漂っています。「殺されかけるってちょっと恥ずかしいことなんだな…」の妙なズレっぷりもそうですが。
 しかし、この作品は春花の家族を焼き殺したいじめっ子らにも、父や母がいて、その間には愛憎様々あるんだってことを描き続けますね。ルサンチマンを暴かれているって誰かが言ってたなあ。仲良くしてる久賀と妙子の絵は、けっこう物寂しい。
 さて、次号はいよいよ春花ピンチか!? 目が離せません。コミックス買うぞー!
もののけ草紙(高橋葉介
 前回、船が沈むとわかってさあこれからどうそれを乗り越えるのか……と思ったら、その過程をすっ飛ばしてびっくり。話の内容が夢落ちの二転三転でしたね。夢の中の情景がけっこう怖い(慈善事業とか、祝福する人たちの目が死んでたりとか)。なんだか主眼が聡ぼっちゃんから、お嬢さんに変わってしまって残念。手の目と聡ぼっちゃんの話をもっと見ていたかったんですけれど。
 最後、残された手の目の姐さんの切ない顔は、やっぱり美しくてそこは満足しました。
絵画修復家キアラ(たまいまきこ)
 ホラー要素はファラオの呪いだけかいね。なんか扱いがお粗末な……。明らかにそれ以外の、恋愛路線と絵画語りに力が入ってますね。
 ギネヴィオは悪いツンデレの見本だと思います。高橋留美子漫画のヒロインにいるような、好きと言ってもいないのに、恋人気取りのごとく嫉妬して理不尽に相手に怒るタイプ。こゆキャラは嫌いだ。
薔薇のヴァンパイア(矢萩貴子)
 新連載。検索すると作品が一杯出てくるのですが、やっぱ熟練の作家さんみたいですな。前回読んだ『豚の心臓』がとても面白かったのですが、今回も非常に面白い。ただ、内容がめちゃくちゃ耽美になっている(笑)。
 何しろ冒頭から吸血鬼流乱交パーティーの様相を呈し、主人公は薔薇で拘束されているという有様。ルシフェル卿とのやり取りとか君らひっつきすぎだ。
 聖職者でありながら吸血鬼に身を堕とした主人公・レオン。人の血を吸うことを厭う彼は、自身を吸血鬼に変えたルシフェル卿の試練を受ける。試練の内容は、ある人間の傍で一年生き抜く事。早速行ってみると、対象となる人間はささいな事で使用人に鞭を揮う美青年伯爵だった……。
 美しいものを好む伯爵・エディーは絵を描きたいという秘めた思いがあるのですが、どうやらそれは主人公に災いをもたらす模様。
 耽美な一方、やたら鞭とか出てくる漫画ですね。脇役二名+主人公。妊娠しているのに鞭打たれて死んだりとか、時代背景もあるのでしょうがなかなかに悲惨です。これから先更なる拷問シーンとか出てきそうでちょいwktk。あと、ヒョロい拷問吏には笑いました。あれ本当に本職なんだろうか。
まがまがし(駒宮小羽)
 唐突な語りから始まる冒頭がけっこう引き込まれてしまう。
 内側から操るため、わざと「喰われた」少女に根負けし、壊れたお兄さんを助けるはめになった人外さんのお話。妖物の主人公が、徹底して非人間思考なのが面白かった。お兄ちゃんと妹の思い出に対する拒絶反応とか。悲鳴が美味とか。
 主人公と栞ちゃんとのやり取りは、わりと少年漫画でもありそうな、いわゆる「人間的思考を持たない人外と、その人外を無理やり説得する人間」のやり取りに見えるのに、その過程やら結果やらはえぐい。なんか最後、がんばった割りに地獄絵図でしたしね。その反応に対して主人公ドライでしたし。「栞の悲鳴が空に溶けてく」って、酷い話なのに凄くさわやかに見えるのがもう。
 短期集中連載として、この人外世界がしばらく見れるようなので非常に楽しみ、楽しみ。
シャカシャカぴえろ三条友美
 ちょいエロ少なめな、いつも通りの三条。でも落書きされた顔で微笑む舞子はかわいかったかも。
 ピエロの設定は、なーんかどこかで見たことが……。どうもこの人の話のネタは、既視感のあるものばかりで困る。
嘆きの天使(熊谷蘭冶)
 お待ちかねの、ランヤッ!
 いやあいやあ、ついに連載が始まりましたね。何本か昔の読みきり見逃してて凄く悔しい。最初に読んだのはフィッターでございました。
 いつもなぜか舞台は独逸(でもフィッターだと、クロエ以外の二人は英語名だったなあ)、そして美少女の顔は大体同じ。そして話が異様に濃いっ。
 今回は冒頭一ページ目から、「修道女のお産」なのですが、生まれてきたのは両性具有の子(つまり半陰陽のたぐいですね)。だが主眼は、産後修道女が死んだことにショックを受ける少女・ジークリンデの回想にあります。
 女としての母への嫌悪感、美しい修道女ドロテアへの思慕、厳格な寄宿舎での女生徒同士の危険な関係、白痴だが美しい庭師……。様々なセクシュアルなモチーフが、ナチ党が進出しつつある独逸を舞台にちりばめられていく。年代的には、1930年あたりでしょうか。
 暗くしっとりと物語は進行し、やがてラスト付近で大きな盛り上がりを見せる。
 主軸となるジークリンデのドロテアへの想いは深いですね。ただ密かに想うだけでよかったのに、自分が描いた絵がきっかけで彼女を苦しめる事になり……それがあんな形で更なる破滅がもたらされる。ふはあ、この濃厚なランヤワールドに酔いしれることのなんと悦楽かっ。
バラの子(蕪木彩子)
 昔から描いている方なのだが……今回はいまいちだなあ。絵が、前よりさっぱりしたような気がする(前、と言っても俺が小中学校ぐらいのころですけれど)。もっと激しくまがまがしい感じだったような。
 いじめられっこの復讐ストーリーというホラーの定番ネタに、バラの王というモチーフを絡めたんだけれど、バラの王がいまいち存在感とかない。キャラ的な魅力というか、モチーフとしての魅力に乏しい感じ。落ちのほうとか見ても「ふーん」という気分になった。
緋い恋(紅迫春実)
 初登場とのことで。ヒロインの顔の造形は好みだけど、二ページ目での語りとか、ちょっと設定を性急に出しすぎている印象。
 絵は巧いんだけど、内容が……あれの正体とかよく分からないし。変にエロしているのも、どーにも。何か伝え方を間違えている感じがするなあ。これはいまひとつ。
ブラッディ・チョコレート(ワタナベチヒロ)
 なんか表紙がゴチャゴチャして見難い……。
 この人は連載より読みきりが面白かったので期待していたのですが、今回はそれほどでもなく。前回の赤い花〜と路線が少々似ているのとか、相変わらず主人公たちの顔の中身がほぼ同じだったりとかも気になるのですが、わりと話が分かりづらかったのが。ノッチを人殺しにして利用しようとしていたのに、最後聖戦とか生き残ってやるとか言われましても。母親が壊れているのも、前回のに似てますね。
悪夢のキッス(有田景)
 前回もそうだったが今回も絵とか話とかいろいろ適当。この手抜き加減は、もはやホラーではなくギャグ漫画と考えたほうがいいようです。
 というか……死んだお父さんが彼氏に乗り移るって前回も同じネタだったよね。悪夢ってどっちもついているから、シリーズ風味? なんだこれ。