松野 秋鳴『えむえむっ!』1

『あの、おいくらですか?』
『料金はけっこうです。そのかわり、俺に往復ビンタしてください』
『わかりました。えいっ! えいえいっ!』
『ああっ! あああああっ! も、もっと強くっ!』

えむえむっ! (MF文庫J)

えむえむっ! (MF文庫J)

 注意! この感想はネタバレを含みます。
 自らの血筋に代々伝わる「ドM」の体質に目覚めてしまった高校生・砂戸太郎が、自らの体質を改善しようとするコメディ。何のかんので3巻まで出てますね、このシリーズ。
 自らを神様と称するクレイジーでドSな先輩・石動美緒、男性恐怖症で男に近づかれると反射的に殴ってしまう結野嵐子、クールサドの保険医みちる先生。などなどの美女&美少女が主人公を「ドM体質改善」という建前のもと罵倒しまくり虐待しまくるドタバタながら、そんな勢いだけで通すことなく人間ドラマもきちんと展開させているところがポイント。
 この第1巻は二本の話が収録されていますが、どちらも綿密に伏線を張って綺麗に話をまとめており、非常に好印象を受けました。主人公には彼を溺愛する姉と母がおり(父は他界)、その二人がベタベタアマアマ攻撃をことあるごとに仕掛けてくるのですが、そんな「それなんてエロゲ?」的シチュにもきっちり後のための布石があって、手堅いつくり。
 文章はそれほど凝った修飾がなく、太郎が死神の幻影を見るくだりなどからややマンガチックではあるものの、読みやすく軽快な文に仕上がっています。
 主人公は、女性に罵られたり冷たくされると気持ちよくなってハァハァしてしまう変態野郎なのですが、そんな自分が嫌で治そうとするうちに、友情を深めたり、苦しむ女性を救ったりと、ちょっと熱血する部分もあってなかなかいい奴。読んでて嫌悪感の出ないマゾ野郎ですねー。
 引き続きシリーズを追っていきたいと思います。