中村九郎『樹海人魚』
「ザネはどうしてここにいる。誰かに助けてもらおうってか? 自分の命も他人任せか? いいか、ザネ。誰も答えは教えられない。みんな自分で見つけるんだ。いや……見つけようともしないで、何もしようともしないで、気づいた時にはどうしようもない。
そういうヤツをな、グズって言うんだ、グズ!」
- 作者: 中村九郎,羽戸らみ
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2007/05/24
- メディア: 文庫
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だから「樹海」の人魚かなーと思ったら樹海博士が作った不老不死の素・形状記憶遺伝子を投与された人間=人魚ということで、なーんだとちょっと思ったり。まあヒロインが最後のほうで樹海の人魚どうたらと言ってますが。
アリフレロから更に、ライトノベルを意識して設定を作った印象があります。不死の怪物・人魚と、その人魚を人間社会に適応できるよう『調律』し、対人魚『歌い手』として用いる『指揮者』、というのが大筋の設定。で、人魚は殺しても殺しても固有の復元パターンで生き返る(この死んだ後の復活を来世とか言う)ので、不死のメカニズムを解明し、二度と蘇らないよう「扉(Do-or)に鍵をかける」。ただ、普通はただ殺すだけがせいぜいで、鍵をかけるのはやっぱ難しい模様。終盤で出てきた、不死を実現している理屈(森羅万象の反転)とか面白かったです。設定マニアじゃけん。
例によって例のごとく、難解な文章は健在。何を言っているのか分からなくて読み返すこと多少。ただ、それでも不思議にその味に惹かれる感覚も健在。
主人公がみんなからグズ呼ばわりされるヘタレタイプだけあって、何かキャラの物言いがアリフレロより辛らつになっている気がします。笑いながら「やめちまえ。二度と俺の前に顔出すな」とか言い出す肥後さん怖いよう。主人公の姉・由希もたいがい厳しかったですが、肥後さんのは更に生々しい厳しさだ……。ちょっとしか出てこないけど、実際仕事しているとこういう厳しさにぶつかるなあ、という。
ただ、絶対零度のバービー・ドールはただのツンデレなので除外です。冒頭で尋常なく冷たいと思ったら、一転出撃前にデレたりするし。ツンデレとゆーのはツンからデレへ移行する過程を楽しむ時間経過型の萌えなのですが、気の短い方ように、ツンとデレを切り替えるタイプのほうが最近多いですね。
一方由希姉は、半分は分かって半分は分からない厳しさだったなあ。罵倒系お姉とあらすじで紹介されていますが、それにしちゃ罵倒の内容が容赦ないです。主人公は「視たら死ぬ(死ぬ呪いがかけられる)」人魚を目撃してしまうのですが、この姉貴は「お前どこまでグズなんだ」と怒り、即座に主人公に追放を言い渡します。「他人の命まで人任せか」にはちょいうなずけますが、本格的に厳しいぜ。ひいい。
そんな分けで全方位砲撃のごとくグズと言われ続ける主人公ですが、人格自体はそんなクズなグズかとなるとそれほどひどい奴という印象があまりない(由希姉は「恥もプライドもない」と言ってましたが)。まあ……ヒロインの霙を見捨てて逃げ出したのは、ちょい「うぉい!?」と思わなくもなかったですが、序盤だし……なあ……(苦笑)。何のかんので、最後は結構知略を見せましたし。
ただ、冒頭の戦闘でボーッと突っ立っていたのはかなりマイナス印象でした。最初、読者も設定を把握していませんし、主人公も戸惑っているので(それはどうも、死花花についてだけのようでしたが)状況についていけないだけど解釈したのですが。後の桜井サンとの会話からすると、人魚どうたらの件はきちんと知っている。後でクラスメートの房木君と会話した感じから、主人公が知る常識(人魚とかバンドとか)はやはり一般人に知られていないっぽい。お前人魚とか知っていたのに何でボサっと突っ立ってたんだよと。それでバービーいなくなるし。
でもそんな状況で、ヒロインの霙だけは、主人公をやさしく励まし、最後まで信じるのでした。実に狙ってやがる。まあ、だからこそ最後はハッピーエンドなのでしたが。当たり前のことを当たり前にできる人はいない、はうなずける。俺もそうだしw
人魚を管理するための、謎げな光線(かな?)・運命の赤い糸も結構好き。
イラストは結構好き。というかヒロイン・霙の絵がよい。前は別名義で何か描いてた絵師さんらしいです。ただ、カラーページではロリ遠藤より桜井サン描いてほしかったなあ。あの人登場結構多いのに、あまり絵に出ないんですよね(最後のほうの六人並んでいるやつの右上が彼女かと思うのですが)。あと、肥後さんみたいなオヤジキャラも絵にしてほしかった……むさいのは描けないのだろうか(ミツオとか美少年になってますしね)。
関係ないですが、あらすじでラビットが「みだら」と紹介されていたので、もっと痴女キャラと思ったら卑語の一つも言うことがなく、詐欺だと思い申した。