中村九郎『アリフレロ──キス・神話・God by』

 初中村九郎作品。詩的カオスと名高い妙な文章に冒頭から躓きそうでした。なんだ、「白くて丸あるいっ」って。まあこの辺はコールガール出てきたあたりから、読み返してちょっと理解できたのですが。関係ないが、長いことタイトルを「アリフレローキス(アリフレ・ローキスと区切って発音)」だと思ってました。でもアリフレロってどゆ意味でつけたんでしょうね、一箇所だけ黒園が言ってましたが。
 文章がうまくないうまくないと言われ続けながら、なんだかんだで冊数は出ているんですよね、この人。まだ二桁にはもうちょっと遠かったと思いますが。秋山編集長の言を借りると、「明らかに語彙選択は上手くないのだが、その下手さに一定の方向性がある」とのことで。実際、単に下手と言うにはなんだか味がある。読んでいて意味がよく分からなかったり、シュールだったりするのだが、文章が書けてないのとは何か違う──気が、する。
 物語は、『神話』なるものが存在する現代世界で、一介の学生が神話世界と関わりを持つ特別な人々『ビップ』が企てたゲームに巻き込まれるところから始まる。神話には『遺物』と『汚点』があり、被視姦癖(とでも言うのか)がある主人公・三井川は、神話の遺物を狩る少女・黒向日葵=黒園葵と出会う。と言っても、三井川はのっけから「左腕に神話が降ってくる」少女・小桜に死を予告され、そのとおりにぶっ殺されてしまうのですが。
千里眼』の視点と、三井川の視点が一つになっていく構成は楽しかったです。
 神話の遺物・アルファキスによる死のゲーム、ビップグループとの抗争と基本はバトルなのですが、あまり殺伐感や緊張感はない、変なのんきさがあるのも特徴。生死をかけた戦闘の最中にも軽口を叩くのですが、啖呵とかそういうのじゃなくて、本気で何かズレているようなセンスを発揮している。
 これもまた編集長の受け売りだそうですが、中村九郎のポイントに「リリカル(だっけ)な恋物語」があるそうで、アリフレロの場合はそれが最後のほうで出てきます。が、恋愛感情はいまいち唐突な感は否めない。クランチも、ご都合的な唐突さを受けました。小桜の因縁も最後あれ、決着ついたんだかついてないんだか? と。
 ただ、変なキャラ+神話とビップ達の世界が織り成す空気自体は好き。キャラの中では足利君(偽名らしいが)が一番好きでした。年度細工みたいに人間再生して、しかも結構ガラクタ混ぜて、あげくあんな場所にあんなもん使っているのはそれどんなプレイ? ってな具合に大笑いした私は何か間違ってますでしょうか。