水薙竜唳『キルウィザード』

「人生とは例えると 苺のショートケーキかガトーショコラか どちらかだわ」
「お菓子……ですか」
「甘くて柔らかくてたるいか 苦くて柔らかくてたるいか ……よ」
「どっちにしろ柔らかくてたるいんですね」

KILL WIZARD(1) (講談社コミックス)

KILL WIZARD(1) (講談社コミックス)

 マガジンに掲載されていた異色のファンタジー漫画。とはいえ、異色なのは掲載誌にはめずらしい、バサバサというか泥臭くも繊細なタッチの絵柄と、そのジャンルで、ファンタジー漫画として変わっているかというと、思いっきり飛びぬけているというほどではない。
 対魔法使い(スペルキャンセラー)の主人公が、相棒の教会騎士とともに魔法犯罪者を倒すというストーリーで、確信犯的なゲームチック描写が特徴。戦闘が始まると、顔のそばにHP・MP・SPといったパラメーターゲージが表示され、時々ダメージ(72HITとか)が表示される。ファンタジー漫画でゲーム的描写を用いた作品では、衛藤ヒロユキの『魔法陣グルグル』を思い出すが、あれはステータス表示やメッセージウィンドウを全面的に押し出していたのに対し、こちらは画面にちっこく入る控え目な描写となっている。
 しかし小さい表示でもやはりその描写は確固として存在しているもので、味も雰囲気もある絵柄でファンタジー世界を演出することに成功しているにも関わらず、その描写のおかげでラグナロクなどMMORPGの世界を漫画化した物を読んでいるような気にさせられてしまう。
 それが狙いなのかもしれないが、だとしたらどういう得があるのだろう。ギャグの一種? ファンタジー漫画にこういうのもなんだが、これらゲーム描写が作者の単なるお遊びだとしたら、作品世界のリアリティを損なっているのではなかろうか。
 まあ、あまり真面目に考えても仕方ないかもしれない。とはいえ、どっちみちそれのおかげで、重厚なファンタジーと呼ぶにはいささか抵抗のある仕上がりになっている感はいなめない。
 それはさておき、前述のようなストーリーであるため、本作の見所はなんといっても魔法戦である。対魔法(アンチマジック)の際には「セットA,C,クラックF,B,C,C,」などとプラグラミング的な詠唱になる*1が、大概は良く言えば詩的、悪く言えば中二的なものになっている。スレイヤーズとかオーフェンとか、あの辺の伝統的ファンタジー物らしさ満載である。作中では、フルカネルリの『死者の恋歌』が一番良かったかな。
 主人公のファーデンクォートは女性的な容姿で描かれており、作中では女と間違われては突っ込みをいれるというお約束が存在する。苦手な人には苦手かもしれない。だが、本作は全6話全1巻という短さなので、絵が気に入ったなら気軽に購入してみるといいだろう。
 作者の公式ページでは「漫画中一コマしか出てこないようなキャラにやたらと裏設定があるのが特徴です」とあるとおり、現在お蔵入りの設定が山ほどあるようだ。人気が出れば、サルベージされたりするかもしんない。
 ところでガトーショコラも充分に甘くて美味しいですエンハラス先生。


 追記(1/17)。どうやらこの作品は、WEB小説&イラスト「冬月竜騎譚」(残念ながら現在休止中)のノリとか設定とか受け継いでいるらしいです。だから裏設定が沢山あったのね……。

*1:そして実際、主人公のファーは呪文を「スプリクト」と呼んでいる。