鈴木鈴『あんでっど★ばにすた!』1・2

 これは剣。これは斧。これは鏃。これは銃弾
 これは、不存体を、あの不浄な存在たりえない存在どもをかけらも残さず滅するための炎。
 これは、廃絶十字(ストレイトクロス)の弾劾騎士(バレットナイト)。行って討って戻らない、使い捨ての魂。

あんでっど★ばにすた! (電撃文庫)

あんでっど★ばにすた! (電撃文庫)

あんでっど★ばにすた〈2!〉 (電撃文庫)

あんでっど★ばにすた〈2!〉 (電撃文庫)

 注意! この感想は1・2巻のネタバレを含みます。
 デストラクションコメディ略してデスコメ(2巻作者後書き)こと、ラブコメでちょっと異能力バトルなライトノベル。絵がよくないとか文章に粗があるとかで文句言いつつ2巻まで読むとそれなりに愛着もわき、3巻目が楽しみになってくる塩梅。気軽に読める感じがいいですね。
 この作品、最初数ページ読んで文章が肌に合わず(なんか細かいところで引っ掛かる)、「新人の作品か?」と思って作者履歴見たら、結構ベテランで驚いた。失礼な話かもしれないが、それにしたって「説明」がうまくない。2巻でもところどころ文章が気になったが、これは作者と私の感性の相違だろうか?
 説明のほうは、「シリーズ物の1巻飛ばして2巻を読ませられた」ような感じを受けました。キャラ紹介にしても、冒頭の家族だんらんは「作者楽しそうだなー」と生ぬるい置いてけぼり感を受けることしきり。なんかこう、出てきたばかりで馴染まないキャラ同士がキャッキャウフフしてんの見てたとゆーか。キャラの作りがステロに感じたのもあると思うのですが。あと、古臭い表現だが全体的にシチュとかギャルゲ臭いのもなあ。
 見た目若くて綺麗で抱きつきぐせがあって息子に家事を任せてる母。その母のために朝食作ってたら、勝手に家にあがりこんだ幼馴染みにその飯をかっさらわれる主人公(荻原真尋)。超金持ちで幼馴染みでワガママで、主人公の母のために執事に重湯用意させたり、「あたしは真尋のプレーンオムレツが食べたかったの」と抜かすヒロイン(御船冬子)。……んな女衆おるかっ(まあそれを言ったらナンボかのラノベは全滅だ)
 それと、アンデッドの説明も作者が自己完結気味であると感じます。この作品のアンデッドは漢字で「不存体」と書き、「五法《ヴァニティ》*1により造られる」とだけまず説明されます。アンデッドモンスターくらいはラノベ読者には基本知識ですが、この作品は世間一般のアンデッドとは異なる様子。なにせ前述の説明で「死体に五法をかけて造るのかな」とか思っていたらどうも違うっぽい。で、アンデッド=死んだ人間=元人間、だと思ったら、そんな不存体は瘴主《リッチ》のリシュエルだけだそーで。五法の一つ、色法《オルタ》使いのリシュエル(たち)がアンデッドだと分かるシーンでも、すかさず「アンデッドはヴァニティを使えない」と真尋が言うんですが、それなら先にアンデッドの説明した時に一緒に言っておけば、読者の驚きも大分違ったろうに。「リシュエルさんは凄いオルタ使いなんだー→え、リシュがアンデッド!? 嘘だ!→ところが私は特別なアンデッドでね…」みたいな。
 また、主人公は物語開始以前にもアンデッドに出会ったことがあるそうですが、伏線にしてはノイズな情報ですねー。この物語におけるアンデッドについて中々解説してくんないから、主人公が出会ったアンデッドのこと回想するシーンで言ってくれると思ったらそんな回想ないし。結局2巻でも何もそれ触れられないし。伏線ならもっとさりげなくやって欲しいのですよね。ここらへんが、「1巻であったことを2巻でもっぺん出したのでちょっとだけ」みたいな説明に感じられて、首を傾げる次第。
 ストーリーは、1巻、2巻ともに、なぜか主人公の前には彼に好意を寄せる女性が登場して二人っきりでデートっぽくなったりし。恋人でもなんでもないけどそれに激怒するヒロイン(暴力属性)はこっそりデートもどきの後をつけ、そして二人は近づいてきた女性によって事件に巻き込まれる……という形式が双方にある。
 2巻はまだ相手が主人公を利用する気で近づいてきたからまだいいんですが、1巻のセフィラはなんでそんなに主人公に思い入れているのか不明でした。一応恋心はあったようですが、それについて一目ぼれなのかとかそんな言及はない。記憶が消されちゃってからの2巻では、好意こそあれ恋心はないしい、いつから真尋を知っていつからそんな気持ちになっていたんだと。真尋と付き合いあったのって2、3日がせいぜいじゃんけ。
 日常シーンは基本主人公周辺のラブコメなのですが、どうも感情移入できないのですよね。メインの冬子→真尋も、セフィラも、あとサブだけど黒島→佐乃宮も、好意MAXでスタートして、それが当然のように進められて、なんでそうなのかさっぱり説明がなくて首を傾げる。そしてそれがとてもご都合に感じた。冬子はあちこちでノロけているからマシなほうですが、それでもまだ引っ掛かるなあ。
 あと、これは細かい話ですが、作中の外国人キャラの名前がリアリティないですね。無国籍といいますか、実際の言語に即した姓名じゃないな、と。リシュエル・ウィキシントン、アルベルク・レヴナンス、セフィラ・リンガリンガって。ファンタジーもののゲームキャラみたい。アルベルクだけ独逸系ですが、名字ならまだしも名前にベルク(山)なんて使うのかなー。
 作者の力量に関係ない点では、絵が気になりますね。カラーとかはまだ気合入っているんですが、中表紙見て「ん、ちょっと体が変?」と思ったら予感的中。ゴスロリファッションであぐらかいてキセルふかす幼女、という難しいもの描くのは大変だとは思うが、1巻116pはちょっと……うわぁ、とオモッタ。普通挿絵はいって盛り上がるところが逆に萎えたりね。1巻の泣き顔挿絵はそれもひどかったと……。まーとことん好みではない絵。
 それはともかく。
 五法という超能力の設定は、目新しさがなかったんですが、「変化の可能性」である零質《シューニャ》とか、機工品《アートクラフト》とか、五法相《ヴァニスタ》*2集団『諮問機関《カウンシル》』とか、廃絶十字《ストレイトクロス》とか、弾劾騎士《バレットナイト》とかとか。その他のネーミングや設定は中々楽しませてくれます。あとアルベルクが凄い好きになった。
 1巻あとがきの「このお話は死体のお話です」「最後にはみんな死体に」とゆー言葉に惹かれてみたら、その言葉が連想させるような雰囲気の作品ではなかったですが、多少の違和感とツッコミをガマンすれば充分楽しく読める作品でした。

*1:この作品の異能力。魔術とか超能力とか呼ばれるものの総称で、ゲーム的に5種類に分類される。

*2:=五法使い