三家本礼『ゾンビ屋れい子』文庫版1〜7巻

「魔王サタンよ 余の願い聞き入れたまえ!! この死せる者にひと時の息吹を与えられんことを!!」

ゾンビ屋れい子 1 百合川サキ 編 (ホラーMコミック文庫)

ゾンビ屋れい子 1 百合川サキ 編 (ホラーMコミック文庫)

ゾンビ屋れい子 2 姫園リルカ 編 (ホラーMコミック文庫)

ゾンビ屋れい子 2 姫園リルカ 編 (ホラーMコミック文庫)

 ホラーM1月号感想もやったので、ミカモン応援キャンペーン。
 ジェットコースターのごとき疾走感を出すためにゃ、多少の整合性は無視する(褒め言葉)三家本礼出世作。ホラー漫画雑誌に掲載されていたにもかかわらず、少年漫画的ノリで元来の読者層以外にも読者をゲットし、カルト的人気を誇った作品です。
 主人公・姫園れい子は代々屍者をゾンビとして生き返らせることで金銭を得る『ゾンビ屋』。その家業を受け継ぐれい子が、その能力を駆使して様々な依頼を解決し、また他の『ゾンビ使い』と戦いを繰り広げるというのが大筋のストーリー。
 ゾンビ屋=屍体をゾンビにする能力は主人公(とその姉リルカ)固有のもので、他の『ゾンビ使い』は地獄からゾンビを召喚し、使役するだけという決定的差別化が計られている点がポイント。いかにも主人公ですね。ただ、ゾンビ使いの能力は「スタンドをゾンビに置き換えたジョジョ」もしくは「血肉つきオーバーソウル」というおもむき。随所に荒木飛呂彦オマージュも見られます(たとえば、サリーバーンズにれい子が危機感を覚えたシーンのナレーションなどそのままです。このへんは、後の『巨乳ドラゴン』でレナが支配人をぶん殴った時のセリフにも同様のノリが見られます)。
 では、各章ごとに詳細にレビュー。
■初期エピソード・単発作品群(1巻〜その他複数)
 初期のれい子はおっぱいも慎ましやかな美少女女子高生。感情の起伏をあまり感じさせず、クールに依頼をこなし、契約違反ともなれば依頼人が悲惨な目に遭ってもしったこっちゃない。という、いかにも1話完結式ホラーにふさわしい主人公でした。一番女子高生らしかったのもこの頃じゃないですかね。
 長編シリーズが一度終了した後にも、何度か出てくる単発エピソードは、どんどん少年漫画化していく長編と違ってホラーらしさを残していて楽しめます。読切だけ集めたれい子作品集ってのがあってもいいと思うのですが。
 ちなみに文庫版は「頭髪検査」を初め、3本ほど未収録の読切があったりします。代わりに、ミカモンの昔の読切作品が載っているのはファンには嬉しいところ。百合川の原型である「妹」や伝説の「クレイジーママ」もありますぜ。
■百合川サキ編(1巻)
 デッド・シスター&デス・シスターという、サキ主人公の読切が二本入った後に開始。これだけでもホラーとしては充分な出来で、サキの強さ恐ろしさがよく出ています。
 百合川サキはナイフを使う女子高生殺人鬼。連続殺人犯というものは、現実には女性の割合が圧倒的に少なく、かつ切り裂き魔といえばほぼ間違いなく男性なので、中々珍しい造形ではないでしょうか*1。サキの特徴は、小さな女の子をさらってきては、「可愛いあたしの妹」として振る舞う事を強要し、気に入らなくなると楽しく切り刻んで殺してしまうという物。子供は可愛いものですが、可愛いだけの物ではないと言うのに、サキは可愛さ以外は決して受け入れようとはしません。この辺の心理は、後のエピソードで登場する妹・みどりとの関係も原因にあるのでしょう。
 れい子とリルカ、秋山先生と夏美、サキとみどり。ゾンビ屋れい子には「女性の家族関係」がモチーフとして大変多く登場します。雄貴と麻夜は珍しく兄と妹でしたが。不思議とそういう構図ばかりなんですよね。
 さておき百合川ですが、彼女はゾンビ屋切っての人気キャラクターです。なにしろ女子高生なのに滅茶苦茶強い。スコップを遠投して樹の幹に刺し、追ってきた警官(発砲準備済み)をナイフ一本で返り討ちにし、銃を奪って残りの追っ手も始末。走る車の荷台に軽々飛び乗り、大の男を後ろから襲って一撃で後頭部から口までナイフを貫通。その活躍は残虐で凄惨ですが、同時に(ミカモンのバイオレンス全般にも通じる)ダイナミズムに溢れており、読者を魅了します。
 れい子との戦いで彼女は死亡し、エグい最後をとげますが、その活躍は読者の心に残りました。
■姫園リルカ編(1巻〜2巻)
 百合川によって殺され、生首だけになったれい子が、他人の体と合体して復活!*2 今度の敵は双子の姉にして「人類総ゾンビ化による世界征服」を企む姫園リルカです。そして、百合川サキはれい子の召喚ゾンビとして復活を遂げました。にしても、人間の生首を普通に食料品と一緒に冷蔵庫に入れるのはやめようぜ。
 そして、新たなるゾンビ使い・三島流動(るどう)と東堂雄貴、その妹・麻夜、美しき女戦士ジャスミンといった面々と共にリルカの手下を迎え撃ちます。月刊誌という点を除いても、少年誌ではもっとかかりそうなネタをスパスパ気持ちよい速度で進めてくれるのはミカモンの長所。
 流動と雄貴は死亡しますが、少年誌では絶対に出来ない殺し方でした。残虐なのではなくて、雄貴が敵の甘言に乗って長年の親友を裏切るので。初めて読んだ当初はありえなさにドびっくりでしたよ。それを目の前で見せられた麻夜ちゃんの「見て見て! みんな死んじゃったのよ!」で、この子は再起不能じゃないかと思いました。あと、「絶体絶命の危機に、亡き兄への想いと共に新たな力に覚醒した幼女」をあっさり殺す点も凄いと思いました。少年漫画のノリをしつつ、少年漫画のお約束に徹底アンチ。
 ゾンビとして復活した百合川は、セリフこそないものの、クールビューティーな無表情とあいまって美しさ増量。ついでにおっぱいも増量。ゾンビの身体能力で元から超人的だった戦闘力も増幅され、戦闘でズタボロスプラッターになりながら戦い抜きました。
■スターコレクター編(3巻)
 S.C.編の前には、前後編で「百合川みどり」のエピソードがあったりします*3。秋山先生はちょっとやりすぎで半ばギャグでしたけれど。みどりのエピソードは結構哀しい。なんで10年間昏睡してたのに現在の姿で姉が夢に出るのか気になりますが、ゾンビになったことで夢魔的能力もこっそり獲得したんでしょうか(と言うことは、れい子にあんな扱いをされながら、中身は生前そのままなのでしょうね。まあゾンビになった今でも、敵を大量に切り刻む時は嬉しそうにしていますが)。
 さて、百合川編などの舞台だった白池町から黒須町に引っ越したれい子、そこには一命を取り留め再び野望に燃えるリルカがいました。黒須町にはもちろん他にもゾンビ使いが存在します。本エピソード開始時に、三人のゾンビ使いがそれぞれ紹介されますが、紹介に見合った活躍をするとは限らないんですよね……(笑)。しかし雨月竹露、初期の顔が後の顔(ぷくぷくちびっこ)とはまるで別人です。ジョジョ4部の間田もしくは初登場時の花京院並に。あと、岩井豪人は明らかに承太郎オマージュですね。ガクランで喧嘩上等で鉄パイプ最強。ゾンビを使うより自分が戦ったほうが強かったり。
 このシリーズ中に、「ゾンビ使いの中には、ゾンビを召喚して使役する基本的能力以外に、ボーナス的に別の能力を備えた?フリークス?がいる」ということが説明されています。れい子の家系は代々フリークスのゾンビ使いだったわけですね。そして、そうしたフリークスの中でも極めつけの存在が「スターコレクター」。ゾンビ使いの手には、ゾンビ召喚のための魔法陣……五芒星の「スター」があるのですが、S.C.はこの「星」を奪い、その召喚能力を奪ってしまうのです。
 こうして、リルカvsれい子の因縁対決に割り込んできたS.C.により、れい子もリルカもゾンビ召喚能力を奪われ、百合川まで彼のしもべになってしまいました。膠着&S.C.の一人勝ちになるかと思いきや、ある人物の裏切りによって事態は大きく変化し……!
■雪女編(4巻)
 S.C.編とこの雪女編は、ゾンビ屋れい子でもっとも疾走感に満ちたシリーズでしょう。矢継ぎ早にとんでもない展開が続いて、うっかり目を離したら置いてけぼりになりそうなスピードです。
 さて、第二の乱入者は謎の女軍人・コードネーム雪女(ゆきな)! 人間でありながらその戦闘力は高く、男と比べられることに激しい怒りを示す危険な人物だ! 彼女(達)の狙いは、リルカが兵隊生産のため、零本白栄に作らせていた「運命の弾丸」*4でした。S.C.編から通して、これが戦況を左右する重要なファクターになります。
 上官に裏切られた雪女の暴走により、れい子達は学校を舞台に彼女から逃れるサバイバルを演じることに。ボスキャラとして人気の高いリルカですが、強さや恐ろしさで言えば(後に登場するボスは何か強いけど性格がヘタレたので)雪女はぴか一の部類。その狂的なバトルフリーク的突撃、謎のボディペイント、あっさり部下を見捨てたりNGワードに触れた時のドライアイスのごとき反応などなど、恐るべき強敵でした。
 そしてこの戦いで、リルカとれい子の間にも決着が……。
 零本志呂子は非常によいキャラしてました。
■イーヒン編(5巻)
 れい子がすっかり正義の味方として定着してしまったシリーズ。ゾンビ屋最高潮期はこの時既に終わっていたのでしょう。キャラをあまり殺さなくなったんですよね。たとえば最初、こんなに長生き&活躍するとは思わなかったチーホイとか。
 本シリーズで出てくる敵は、韓国系やヨーロッパなど色んな国籍っぽい名前の人が多く、使用するゾンビも多種多様……。というか、まんま「スタンド」が根付いており、「血液のゾンビ」「炎を操るゾンビ」など人間ではない以前に生前はどんな生物だったのか想像も出来ないようなのばかりになります。
 まあ、今回のボス・イーヒンは「ただの人間に星を与えてゾンビ使いにする」というフリークスなので、彼から星を与えられたゾンビ使いのゾンビはちょっと外道(変り種)ではないかという説もあるので、そうだと思っておきたいですね。イーヒン当人のゾンビはまだまともでしたし(つか、あれ最初れい子に負けて以来使ってませんね。決戦の時は自分で戦っていましたし)。
 今回はズタボロになって修復が追いついていないサキに代わり、百合川みどりが召喚ゾンビとして参戦! 何だかサキ以上に表情豊かです。でもせめて、姉と区別して名前で呼んであげて……。あと、安藤純子と沢本いづみ(サタニスター)はよく似てます。
 あと、お約束の突っ込み。……豪鉄君、なにしに来たの?
カーミラ編(6〜7巻)
 まだ学校に通うシーンがあったS.C.〜雪女編から遥かに遠く、今度は外国が舞台に(まあハンガリーの学園で仕事したエピソードもありますけどね)。
 800年前に封印された魔女・カーミラの封印が盗賊によって解かれたため、彼女を捕まえるために賞金稼ぎが集められた。その中にはジャスミンとれい子の姿も……というのがオープニング。賞金稼ぎがズラっと並んで、仕事内容が説明されるシーンが実にジョジョチック。あと、カーミラと聞くと普通は吸血鬼を連想しますが、私は灰色の魔女カーラ*5を連想しますね。カーラはサークレットに自分の魂を封じ込めており、サークレットを目にした人間はそれに魅入られて身につけてしまいます。そうすることでカーラは新たな肉体を手に入れ、人の寿命を越えて生き続けるのですが、本作カーミラは赤い宝石のペンダントに魂を封じ、やはり人の肉体を奪って生き延びているのです。設定自体はそんなに目新しいものではないですが、この酷似っぷりは気になるなあ。
 さて、このシリーズではサリー・バーンズという女がいいキャラを出してました。志呂子が更にしたたかに陰湿になったタイプと言ったら、少し近いかな。その最期は惨めでしたが、戦闘力以外で結構れい子を翻弄したり楽しい人でした。ただ、他のキャラでモーゴス(キモオタ)とヒムラー(汁女)は引いたなあ。特に後者。ホラーだからスージーいじめるシーンで、もっとおぞましくやってくれた方がまだよかったと思うのに、中途半端な感じもしたし。前世ネタもちょっとなー……。
 それと、竹露の恋敵として登場したプニョこと草薙優花ですが、彼女は他の二人(カーミラ三人の弟子・モーゴスとヒムラー)とは違って、現世で人を殺しているんですよね。リルカにはちゃんと決着つけたのに、優花は放置されてゾンビ屋自体が終了したのはいささか納得がいかず。
 また、最後のほうで唐突に上級魔女(ハイ・ウィッチ)という設定が出てきましたが、次回の伏線と思ったらそれもなく終了して哀しいことです……。まあモノが色々唐突なのはミカモンの特徴ですが。雪女とか登場は伏線も布石も何もありませんでしたし。


 とかく、一般的な漫画のお約束はあまり信用しないで読んだほうがいい作品です(終盤はそうでもなくなりますが、それがかえって魅力を損ないつつある感じ)。いかにも重要そうに登場したキャラがあっさり死に、あまり重要そうでなかったキャラが活躍し、「技術的にどうなの?」と思う箇所もありますが、それゆえ瞬間最大風速は高い。とりあえ4巻まで読むと、その魅力は存分に堪能できるでしょう。
 まあ、結局キャラにも愛着があるので、私は最後まで揃えてしまいましたが……。カーミラ編終了後のオマケラストエピソード、特にカーミラが落ちた地獄の情景は見逃せないものがあります。
「地獄の女王に挨拶なしかァァァ〜〜ッ!!」

*1:まあ女性の連続殺人鬼ってのも一応存在しますけどね。ただ、女性の切り裂き魔も殺人鬼も多くはレズだったりするので、やはり女性は生理的に合わない部分があるかもしれません

*2:このエピソードはジョジョにてDIOがジョナサンの体と合体して復活したことのオマージュであるとされます。

*3:体は16歳、心は6歳。でも6歳でおもらしってするもんか…いや小学校の時、2年生の子が集会中におもらししてましたが。

*4:ジョジョにおける肉の芽+運命の弓と矢、みたいなもんです。

*5:水野良ロードス島戦記』シリーズ