水瀬葉月『ぼくと魔女式アポカリプス』1〜3

ぼくと魔女式アポカリプス (電撃文庫)

ぼくと魔女式アポカリプス (電撃文庫)

ぼくと魔女式アポカリプス〈2〉Cradle Elves Type (電撃文庫)

ぼくと魔女式アポカリプス〈2〉Cradle Elves Type (電撃文庫)

ぼくと魔女式アポカリプス〈3〉 (電撃文庫)

ぼくと魔女式アポカリプス〈3〉 (電撃文庫)

 電撃文庫の鬱・痛い系サバイバルアクション。一説によると、暗すぎて三冊で打ち切られたらしいですね。
『人外のものと契約し、最後の一組になるまで戦う』という形式に乗っ取ったバトルロワイアル物。同様のパターンは『Fate. 』『仮面ライダー竜騎』『金色のガッシュ!』などに見られますが、それら同系統のものと本作が一線を画す点は、何と言っても「救いのなさ」に尽きます。
 本作は古代に滅んだ魔術種の復活を賭け、代替魔術師(ポステリオルマギス)に選ばれた人間が互いに互いの魔力の源=根源闇滓(ルートアンシィ)=命を奪い合い代理戦争を行ないます。で、この代替魔術師というのは、一巻の半ばで明かされる事実ですが「全て死人」。不慮の事故か自殺か他殺か、死してなお生への渇望と、導き手(ナビゲーター)の意向に合った人間が選ばれ、根源闇滓を与えられて生き返ります。
 死体とはいえ、各魔術種の姿に変身する顕化(アピアランス)を使用し、魔術使えるようになる以外は普通の人間として振る舞うことが出来ます。ただし、死んでいるから不死。殺されても根源闇滓があるなら何とか復活出来るし、傷は種族ごとにスピードの差はあるけど人間の何倍もの速度で治癒する。
 そんな設定だから、作中繰り広げられる戦いは非常に凄惨です。主人公・宵本澪は料理屋で脛に包丁をブッ刺され、殴り飛ばされて腹を木の枝で貫かれ、トラックに轢き殺され、両足を切断され、とそりゃもう散々な目に遭います。そしてそのたびに、結構細かい描写もある。不死だからか、ズタボロになっても中々タフネスですが。
 その上、主人公の相棒にしてヒロインの砧川冥子は魔女種の代替魔術師ですが、彼女が使うのは代替魔術(ペインマジック)とゆー、指を切り落としたり血を流したり爪を剥がしたりすることで、その痛みと傷を代償に様々な攻撃魔法を発動されるとゆーもの。毎回スプラッターな魔術使用シーンになります。
 人外の魔術種たちが現世に種の代表として残した導き手(ナビゲーター)たちも、中には性格が劣悪なのもいて、時々悪趣味な話を聞かせてくれます(例:キュリーマーが語る「敗者への罰」。あれってよく考えると、人質はギロチンの刃が見えるよう仰向けに寝かされていますよね?)。
 そんな惨たらしい戦いを繰り広げながら、主人公ら代替魔術師には未来が見えない。魔術を使えば存在に必要な闇滓(アンシィ)は減り、魔術を使わなくても日常を過ごすだけで着実に確実に減っていく。それは細々と人間から闇滓を頂戴するだけではとても追いつかず、いつかは他の代替魔術師から根源闇滓を奪わなくてはならない。
 そして、そんな風に自分が生きるために、そしてナビゲーターの言う事を聞いて戦っていても、闇滓が活性化している現在(=励起節)が終了すれば、ナビゲーターは代替魔術師をただの屍体に戻して現世から引きこもるかもしれない。ならば助かる道は唯一の勝者となることなのか? 勝利とはいつ訪れるのか? ナビゲーターが唱える「種の復活のために根源闇滓を集める」ことが本当に正しいか確証もないのに?
 かように主人公たちの置かれた状況は非常に絶望的です。準メインキャラや敵キャラも結構狂ってますし(二巻のあの子や三巻のあの人たち)。ただ、主人公のひねくれ少年・宵本澪も絶望し自己嫌悪し自虐し自嘲し続けますが、悩み苦しみながらも目の前の状況には対処していくので、その点でイライラさせられることはないと思うので安心。
 また、ストーリー単体で見ても、結構サプライズ(どんでん返し)のある展開をしていると思います。一巻では敵の代替魔術師・ドルイドの正体にミスリードが二重三重に仕掛けられ、二巻では主人公の叙述トリックじみた(ちょっと違うかも)「認識違い」が終盤である真実を暴き出し、三巻では代替魔術師の戦いに?普通の異常者?が割り込んでくるという変則パターンから、あの人のあんな行動が……などなど。
 エログロではないのでエロ展開はないですし、鬱・痛い系が平気なら読んでみて損はないかと。人の死を引き摺るというか、亡くしてしまうことの重みを忘れさせないシリーズでした。グロ方面を期待して読む場合には、肩透かしってほどでもない程度には楽しめるかと(どんなや)。
 しかし本当に終わっちゃったのかなー、このシリーズ。後書きで最終回とか言ってないんですけど。続きがあったら是非読みたいです、はい。