片倉憲太郎『電波的な彼女』1〜3

 実は半月くらい前に読了していたが、まだレビューやってなかった。

電波的な彼女 (スーパーダッシュ文庫)

電波的な彼女 (スーパーダッシュ文庫)

電波的な彼女 ~愚か者の選択~ (スーパーダッシュ文庫)

電波的な彼女 ~愚か者の選択~ (スーパーダッシュ文庫)

電波的な彼女 ~幸福ゲーム~ (スーパーダッシュ文庫)

電波的な彼女 ~幸福ゲーム~ (スーパーダッシュ文庫)

 作者のPCクラッシュにつき、新シリーズ『紅』の2巻刊行が長らく止まりながら、ジャンプSQにて漫画版がスタート&アニメもドラマCDもやるよ! な作者のデビュー作。
 思えばもう3年前の、第3回スーパーダッシュ小説新人賞・佳作『電波日和』改題でありんす。なんかキャラ(というかヒロイン達)は中々ライトノベルキャラ的であるのに、話の展開や主人公はいまいちラノベっぽくないと思ったら、作者は受賞当時既に30歳だったそうで。ちょっとさもありなんと思ったり。
 物語の舞台はちょっとパラレルな、でも現実の延長感が濃厚な現代日本。どう違うのかと言うと、世界の悪質感が強い。テレビや雑誌や新聞のニュースでは、いつも妙に胸が悪くなるような猟奇事件が報じられていて、警察も凶悪化する犯罪になれちゃっているから、主人公が一つの事件を解決してもあまり世間にはその影響が出てこない。そんな、現実よりもっと闇が濃い日本。
 新シリーズの『紅』とかだと、日本を裏から支配したり操ったりする家系が出てきますが、それはさておき。
 物語は、そんな世の中で「不良にも真面目にもなりきれない中途半端なやさぐれ学生」柔沢ジュウと、彼に前世云々を理由につきまとう電波少女・堕花雨(おちばな・あめ)が、ジュウを守ったりなにげない問答を交わしたりしながら、時として自身の関わった事件の解決に奔走する……という感じ。
 ジュウは虚無的でも自分の不幸に酔っているわけでもないんだけれど、ちょっと怠け者感のある主人公でした。基本は喧嘩が強く頑丈なことが取り得なのですが、諦観したような思考回路のわりに、何のかんので人のために怒れる熱血さもある。そしてそのお人よしさゆえに事件に首を突っ込んだりするのですが、頭がキレるわけではないので全然はかどらず、不甲斐なさに歯噛みしちゃうヘタレキャラ。そのヘタレさがネット界隈などではヒロインより人気出たらしいっすな。
 そしてヘタレなので、結局自分より能力もあって、性格が既に完成した感のあるヒロイン達を頼らざるをえなかったりする。堕花雨は頭脳明晰な上、華奢なようで意外とパワフル。行動力もあるし結構喧嘩も強く、戦士的な心構え(初対面の相手を殺す覚悟を一瞬で決める)も備えて「あんた何者!?」と言いたくなる(紅で判明する世界観的に、どうも雨は特殊な家系の出のようですが、このシリーズ上では出てきません)。
 二巻から登場の斬島雪姫は、刃物を持つと性格の変わるブレードハッピー。その状態の彼女は現実にはちょっとお目にかかれなさげな喋り方をしていて、いかにもラノベキャラ成分たっぷりです。が、素の状態の彼女も享楽主義で、好きな相手のためには頑張るが、そうではない相手にはとことん冷たい割り切りっぷりがちょっと怖い。
 雪姫と一緒に登場する円堂円はあまり出番がありませんが、中々凛々しい女性です。オットコマエ。
 そして、ジュウの母親・柔沢紅香は「普段は愛人宅にいりびたって滅多に帰らず、しょっちゅう息子に手をあげる」というなんかろくでもなさそうな母親ですが、彼女の「教育」の成果がジュウの喧嘩強さだったり。そして、よくジュウの回想に顔を出しては、ステキな名言を残していってくれます。
 基本的に、登場人物の割合が女性に偏っている作品ですね。他にも一巻限定ヒロインとか、雨の妹の光とかいますし(光は存在意義がよく分からず、あまり可愛いとも思えなかったので、3巻読むまではちょっと好きになれませんでした)。
 学園恋愛サスペンスということで、戦闘シーンは喧嘩とその延長であり、派手なギミックとかもありませんが、文章自体はうまく、名言やおっと思う部分があって、地味だが確実な筆力がある作品。ただ、世界観が露悪的で、単純な残酷描写より胸糞が悪くなる点は好き嫌いが別れるかも。
 1巻は撲殺魔の話ですが、ボコボコに殴って顔面が原形を留めなくなった被害者の写真を、犯人が蒐集していたりする。で、犯人の境遇も同情出来るものがあるのですが、全体的に世界になんだか救いようのない闇がわだかまっているような気にさせられた。
 2巻は1巻のニュースで報道されていた「えぐり魔」とジュウが関わるストーリーで、「もしかしたら解決しても仕方なかったんじゃないか」と思うような真相が哀しかった。
 3巻目は1番えげつなく、主人公がのっけからチカン疑惑をかけられ、衆人環視のもとボコられるところからスタート。事件の内容は集団で行なわれる陰湿な嫌がらせで、猫好きとしては、足を切られた猫親仔がちょっとキツかったり。犯人も1巻以上に救いようがなかった。
 とはいえ、陰鬱さや残酷さをそもそもの目当てに読んだ人からは、拍子抜けするかもしれない。そして、そんな酷い世界の中でもジュウは生きているし、雨はその傍にいるわけで。わりとこの悪趣味な世界観も含めて、このキャラクターや文章に愛着があったりする。


 さて、次は『紅』読みたいんだけど……刊行に間が空きすぎたせいか、本屋に置いてねえよママン。