冲方丁『シュピーゲル・シリーズ』3
私たちの中にはいつでも墓がある。誰の中にもそれはある。
遅まきながらレビュー。読了してからまた間が開いちゃったよ。
オイレンシュピーゲル 参 Blue Murder (3) (角川スニーカー文庫 200-3)
- 作者: 冲方丁,白亜右月
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2007/11/01
- メディア: 文庫
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スプライトシュピーゲル III いかづちの日と自由の朝 (3) (富士見ファンタジア文庫 136-10)
- 作者: 冲方丁,はいむらきよたか
- 出版社/メーカー: 富士見書房
- 発売日: 2007/11/01
- メディア: 文庫
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今回、『オイレン』はまた涼月・陽炎・夕霧のそれぞれが主役の短編連作形式に戻りましたが、話の内容は結構繋がっています。一方の『スプライト』は2巻と同じくずっと戦いっぱなしの長編モード。思えば涼月たちに対して鳳らってさっぱり日常シーン出てこないんですけどー。そろそろ緩急が欲しい所存。
前回までは互いの作品の登場人物がクロスオーバー的に登場しても、名前やセリフは一切出なかったのですが、今回は堂々と出てきますね(エゴン局長とかは以前から出てましたけど)。『スプライト』には特に出てきませんでしたが、『オイレン』にニナさんやバロウ神父が出てきて、ちゃんと会話しているのにびっくり。うーんサプライズ。
で、設定好きの自分としてはやはり気になるのは人格改変プログラム。身代わり《ズュンデンボック》ってそのまま独逸語のスケープゴートでんな。あれか、虐待を受ける子どもが、虐待されているのは自分じゃないって精神内に身代わりを作って耐え忍び、成長と共に虐待の記憶を忘れちゃうようなのを意図的に起こす感じ? 多重人格とは違うそうですが(byバロウ神父)。
それ以上に興味深いプログラムの作用は、やはり揺籃状態のほうでしょうか。揺籃てあれか、ルビないけどヴィーゲとかキント・ツァイトとかアンファングスツァイトとか言うのか。作中の言語ではなんて呼ばれているのか気になります(細けぇな、おい)。
しかし「人を殺してトラウマが残らないように」とかもっともらしいこと言って、恐怖(感情)の喪失をプリンチップは狙っていたと。でも揺籃状態で暴走して殺し合いになって、プログラムが没に。蛍と皇(二人の名前もついにオイレンに登場! 名前だけ。つーかスプライトのほうには二人とも出番なしでした。ちぇ)のセリフから察するに、記憶が消えるのも最初から込みの感じですけれどね。真理と一つになるすべとかなんじゃらホイ。
また、興味深かったのは今まで何度も出てきた『子供工場《キンダーヴェルク》』がのっけから登場したことでした。う、うーん、涼月達って工場時代は剃髪だったのか……?
また、今まで恋愛要素がまともにあったのは陽炎一人のオイレンでしたが、今回からは涼月と夕霧にもそんな話が。吹雪君に対する涼月の複雑な感情とかは、ちょっと意外だったやもです。あと、夕霧と白露(ビャクロとかハクロだと思ってたらシラツユさんだった。ちぇ)さんは凄いお似合いのカップルだと思いました。いつか幸せに結ばれるといいのですが*1。
以上、オイレン3の所感から、スプライト3の所感へ移ります。今回、時間軸的にはオイレン三話目の聖木曜日からスタート、例によってミリポリで同時多発テロが起こるのでそれを未然に防ぐ&迎撃しよう! と意気込むMSSの面々ですが、なんとその内部には裏切り者がいたのです……。ナノマシンウィルス『4・J・O《フィーア・ヨット・オー》*2』と情報汚染に苦しめられる小隊の運命は!?
とそんな中、冬真のフォイエル・スプライト、および鳳に対する感情が掘り下げられていましたが、注目どころはシャーリーンと、やっとこ過去その他が出てきた水無月君でしょうか。なんか今回、初回から準レギュラー的に出てきたキャラがあんなことになってショック。ニナさん決断早ぇーなー。
あと水無月ママ怖いよ水無月ママ。いきなりの逆切れでもう、いかにヤバイ人か表現しててさすがです。
で、当の水無月は頑張ったというか酷使されたというか。最終的には冬真と水無月って恋敵なんですよね。水無月には幸せになってほしい……というか彼と鳳の出会いが気になります。4、5巻あたりでその辺が出てくるといいのですが、鳳さん水無月についちゃアウト・オブ・眼中。シドイわっ!
もー冬真はなんか好かれているんだから、雛とくっついちゃえよー。容赦なく鳳に殴られて鼻血出してましたが、それもまた愛のため。きっと。フォークとナイフで爆弾を見つけていく彼女が好き。パンツだって脱いだしね(してません)。
あと、乙と書いてなんでツバメなのかしばらく悩んで、最近やっと乙鳥が燕の異称と知りようやく腑に落ちました。漢字名はランダムで決まるそうですが、それを作った人はどんだけ日本語詳しいオーストラリア人なのだ。で、その乙ですが、今回ちゃんと「ミョーオーサマのワザモノ」を覚えていてくれて嬉しい限り。あと、日向フラグがちこっと立った気が(日向さんはやっと挿絵に出演しましたが、御影さんの挿絵出演もあると思ったらなかったので俺は凄い落胆を覚えましたです)。
あと、最後に逮捕されたトラクルおじさんですが、明らかにニセですねー。影武者? 影武者? わざわざ太字で違和感強調しているし。
ですが、今回敵が設置しちゃった転送塔は都市のどこかにご健在なので、今後白 露さんが恐るべき強敵となって立ちはだかりそうです。あわわわわ*3。
あと、オマケ書き下ろしはオイレンより長くてちょっと得した気分。まあ登場人物も多いですし。メルヘンパロディネタは、オイレンでもちょっとやってみて欲しいですね。オオカミ涼月・赤ずきん陽炎・みにくいアヒルの夕霧(白鳥化ずみ)とかで。
これからもシュピーゲル・シリーズからは目が離せそうにありません。あと何冊くらいかかるかのう。
ある意味で、彼女たちこそ都市そのものなのだ。