冲方丁『シュピーゲル・シリーズ』2
──それを駆使する自分自身以上に、武器が価値を持つことなど本来あってはならないことなのだ。
スプライトシュピーゲル II Seven Angels Coming (2) (富士見ファンタジア文庫 136-9)
- 作者: 冲方丁,はいむらきよたか
- 出版社/メーカー: 富士見書房
- 発売日: 2007/07/01
- メディア: 文庫
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オイレンシュピーゲル弐 FRAGILE!!/壊れもの注意!!(2) (角川スニーカー文庫 200-2)
- 作者: 冲方丁,白亜右月
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2007/05/01
- メディア: 文庫
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オイレン1で、作中では明言されていないのに、特甲少女にケモノ耳がついているのがけしからんと思っていましたが、あれちゃんと設定あったんですね。抗磁圧発生装置(見えないヘルメット)・通称オーアって。スプライトでは「飾り耳」ですが、オイレンでは「耳飾り」。飾り耳のほうが見た目的に正しいと思うんですが、わざと分けているんだろうなあ。……そいや、涼月のイラストで尻尾があったけれど、あれもそのうちちゃんと設定が出るんでしょうか。
さて、今作では「同一の事件をそれぞれの視点から追った話」となっており、この時点でも両作のリンクっぷりは顕著。一つの事件をMPB遊撃小隊ケルベロスと、MSSフォイエル・スプライトがそれぞれに追っていく……のですが、一部ちょっと再読風味かな。いやまあ、あまり気にすることじゃあないんですが。スプライト一巻で語られていたことが、改めて(しかも更に長々と新規情報を加えて)オイレン二巻で語られたりするとか、そんな感じ。
作者いわくの同時多発ストーリー、両方の物語を読み、第三の視点を得られるのは読者のみ。となると、読まないわけにはいきませんわなぁ。リンクしている箇所も「ああ、あの場面だ!」とニヤリとさせられることしきり。
また、今回はそれぞれのシリーズに渋いゲストキャラクターが出てきます。オイレンは、熱きロシア野郎ども(ユーリー大佐と愉快な戦争の犬たち)。スプライトは、ラストサムライ・モリサン(杜麟太郎)。どっちも基本はおっさんな辺りが素晴らしい。「ミョーオーサマのワザモノ」なんて一見間の抜けた言葉が、作中ではとても光り輝く。がんがれ乙(ツバメ)。
それにしても今回は、オイレンの黒さと、スプライトの明るさ(まあその中に悲壮さもあるけれど)がまた一層強調されたような気もします。なにせオイレンでは拷問シーンが出てくる(小隊の女の子じゃないですよ、脇役の名も無きおっさんですよ。安心ですね)。引き合いにイラクでの捕虜虐待うんぬんが出てくるのは驚いたがそれはさておき(あ、しかしスプライトにも「日本はアメリカの51番目の州」発言が出たな。皮肉みたいなもんだけど)。
また、オイレンでは「救えなかった」とされたものが、スプライトでは救済されていたりという、補完が行なわれていたのもポイントかな。あまり詳しく言うとネタバレになるから控えますが(物語的にはあまり大したことではないんですけれど)。
1巻を読んだ時に感じことですが、「オイレン」はケルベロス小隊の三人が常にクローズアップされている一方で、「スプライト」は三人の少女+MSSとその関係者という幅広い視点でもって語られている感がありますね。今回、ケルベロスの三人はバラバラになって事件を捜査することになり、終盤まで合流はありません。一方、スプライトの面々はみんな一緒だし、ニナさんやヘルガさんの奔走も語られる。小隊以外の、それを取り巻く大人たちがクローズアップされることが多いんですな。
小隊以外の関係者といえば、「スプライト」の冬真くんですが、彼は影が薄いですねー。今回、捕らわれのプリンスでしたし。その出自から一応それなりにドラマは背負っているようですが、キャラとしてはどうしてもパンチが弱い。素直さが常に強調され、鳳(アゲハ)とのほんのりラブコメもあるけれど、「一般人代表」な感じがどうにも。彼の何分の一しか登場のなかった水無月くんのほうが、よほど印象的で、男をあげる活躍をしてくれました。はい。
一応、設定面じゃ工学や数学に詳しかったりしますが、「オイレン」における冬真、もとい、吹雪くんに比べればそのインパクトは薄い。なにせあっちは「善意のかたまりで出来た地雷」「無限に黒に近い、そしてそれゆえに真っ白な灰色」ですからな。ああ、恐ろしい恐ろしい。
そして涼月の裸は一巻冒頭からだって出すが、雛(ヒビナ)のぱんつの中身は寸止めのスプライト。今回はお見舞いシーンで鳳の下着姿が公開されましたね。彼女は自分のおっぱい(でかい)にコンプレックスがあるようで、そこがいわゆるモエなのでございましょうが、当方としてはミハエル中隊長の一挙手一投足に一喜一憂ハラハラドキドキズキュズキューンで乙女化している陽炎のが更にツボでございます。「くそっ────なんてセクシー!」とかね。陽炎の中には、エンジェル夕霧とデビル涼月が住んでいるんですな。
最後に、赤鹿(ロートヴィルト)。姿は見せねど「こいつは格が違う!」という登場を果たし、スプライトの面々を地味だがうまい指揮で苦しめながらもあっさり退場し、拍子抜けしましたが今回は顔見せだった模様。これまでの物語背景にも喰い込んでいる匂いがぷんぷんしますし、彼の再登場が非常に楽しみです。本名はそのまんま赤鹿(あかじし)何某って言うんでしょうかね。あ、あとクリシュナって登場あれだけなのでしょうか。フォローなし? 哀しいね……。
世間ではもう三巻も出ていますし、ちゃっちゃとゲットして読みますよー!(にしても、副長のハイレグ姿という爆笑コラはちょっと絵で見てみたかったです(オイレン2))。
「頼むよ。迎えに来てやってくれよ。こいつらを国に帰してやってくれよ。みんな死んだ。壊れた街を守るために死んだ。本物の壊れ物のやつらが、ここにいるんだよっ」