藤田和日郎『黒博物館スプリンガルド』

黒博物館 スプリンガルド (モーニング KC)

黒博物館 スプリンガルド (モーニング KC)

 ここから先は敬虔で善良なる者以外立ち入り禁止だ
 ……オレたちは入れない

 『邪眼は月輪に飛ぶ』に続く藤田短編の単行本。続編が出るという話もあるようですが、バネ足ジャックの6話と、マザア・グウス上中下で話がちゃんと終わっているので安心して読めます。
 既にレビューが幾つも出ている作品ですが、それらを眺めると「やっぱり藤田はサイコー!」と絶賛する意見と、「もう半分過去の人だな」と並みの作品と見る意見の二通りに分かれるようです。「過去の自分の様式を繰り返しているだけ」「うしとらの頃のパワーを失って自己模倣に入った」という意見には頷けるものがありますが、これだけ長いこと漫画書いてて、なお今も一定の品質を保っているのは凄い事ですよ。過去にヒットを飛ばし、歳を経て業界の重鎮や大御所になった作家の中では、今でも精力的に新作を作り続けている稀有な人だと思います。
 個人的には、星矢とか筋肉マンとか、過去の遺産を食い潰しているような感じがしてどうにも好きになれない。いやエピGは読んでたけど、中々話が進まないまま延々戦っているから飽きた。岡田はニライカナイとか大好きだったんだけどねえ。
 そんなわけで、いい意味でも悪い意味でも「大家」となって久しい今回の藤田作品。語り部の『ロッケンフィールド警部』が、黒博物館の学芸員(キュレーター)に『バネ足ジャック』の話を聞かせる……というのが大まかな粗筋。帯びにあるゴシックアクションの名のとおり、19世紀の倫敦を舞台にハラハラする大活劇が繰り広げられる一方、毎話の冒頭では語り部とキュレーターのほのぼとした会話がほっと一息つかせてくれる。
 すわ人外のものかと思うような怪人『バネ足ジャック』は実在を噂された人物で、犯人と疑われたストレイド卿にもモデルがいる。話と話の間に掲載されり、『黒博物館館報』に詳しい(……折り返しにも書いてあるが、黒博物館はスコットランド・ヤードに実在するらしいです)。
 倫敦の町を夜な夜な跋扈する怪人、それを追う熱血機関車刑事、その裏に潜むのは、孤独な貴族の不器用な恋の物語。……いや、なまなかな恋ではなく、とても大切な女性を見つけたとでも言おうか。ストレイドはとんでもないロクでなしであり、その罪の償いは済んでいないような気がするが、マーガレットのために血と泥にまみれた彼はまさしくヒーローだった。

「マーガレット…は 美しかったか…」
「天使みたいだったぜ」
「幸せ…そうだったか…」
「世界中の誰よりもな」

 それはそうと、フランシスってホモくさいやっちゃなあ。……と思っていたらやっぱりそんな感じだった。その上なぜ仮面を外したらまた仮面が出てくるんだと。お前何をしたかったんだー!(笑) それと青年誌なので乳首が出るんだが、冒頭に一回出るだけで、「仕方ないので出しました」と感じられるのは私の気のせいだろうか?
 あと、「異聞」のマザア・グウスはスプリンガルドから10年後の話で、こちらはまた少年と少女が活躍するボーイミーツガールであり、なおかつ格好いいストレイドが見られます。
 で、語り部の『ロッケンフィールド警部』にちょっとびっくりサプライズ。次の悪戯といいつつ、結局またおかしな女に会ったような(というかそもそも、何故キュレーターにこの話を語りに来たのか気になるんだけどさ)。