黒崎薫・和月伸宏『武装錬金/Z 夢みた楽園』レヴュー

武装錬金/Z(スラッシュゼータ)夢みた楽園 (JUMP jBOOKS)

武装錬金/Z(スラッシュゼータ)夢みた楽園 (JUMP jBOOKS)

 ぶそれんノベライズ第二弾。表紙の新キャラが火渡とカブるような……。ノベライズは//だけで綺麗に終わっていたと思うのだが、これが出たために、確実に第三弾が出なくてはいけないと思いました、はい。
 武装錬金は、漫画本編で幸せな大団円を迎えた作品です。若干の未回収伏線とかの瑕疵はありつつも、//はそれを補う形で出ました。が、/Zは『幸せな閉じた世界』という、ピリオドの打たれたこの作品に、再び暗雲を立ち込めさせてしまったのです。悪い、というわけではありません。ただ、『責任きっちり取ってくれよ』という感じ。
 冒頭でカズキは『選択肢が二つあるうち、どちらか一方じゃなくて、どちらも択る』という主義について語っています。そうするようになった、兄弟の心温まるエピソードと絡めて(あのカズキは偉いですね。普通のお兄ちゃんだったらブチ切れて妹と喧嘩になってます。そらまっぴーもブラコンになるわ)。
 で、武装錬金本編は、カズキのそんな主義を肯定する作品でした(るろ剣の『不殺』主義同様に)。が、/Zの決着のつけ方は、それにNOを唱える。どちらも選ぼうとしたら、どちらも選べなくなる現実をつきつけ、『信念の相違』を身をもって教えるのだ。これは原作の否定というより、更なるカズキの成長フラグだろう。だから、是非続編が出て欲しい。
 あと、原作よりはこちらのほうが、私としてはより好ましいと思う。武装錬金は好きな作品だし、まず嫌いなキャラクターはいない。ただ、カズキの善人っぷりはちょっと鼻についてしまうのだ。こりゃ私が歳喰っただからとか以前に、るろ剣時代から馴染めなかった部分である(剣心より斉藤と志々雄ですよ)。ただ、中途半端にはせず、徹底してまっすぐな善性を前面に押し出している突き抜け具合はいい。パピヨンとの「謝るなよ 偽善者」や、蝶野戦後の消沈ぶりなんかも好きだし。
 こういう100%陽性型主人公の頂点は『うしおととら』の蒼月潮だと思うが、彼にも一度憎しみだけで戦っているようなシーンがあった(百面戦前、せっかく再会した母に叱られたあたり)。まったき善、というのは不自然で歪なのだ。だって人間だしね。だから、再殺編でカズキが見せた人格の変貌(それが作者の意図したものかどうかは分からないが)……犬飼に見せた態度や、火渡に対する殺意などに掘り下げが欲しかったなと思う*1
 アニメで改めて、カズキがまっすぐな台詞を吐いているシーンを見ると、やっぱり馴染めないものを感じてしまうのですよね。18話の「守りたいものが同じなら、きっと戦友になれる!」とか、火渡への「そこをどいてくれ!」のあたり。いやお前、それは甘すぎちゃうんかと。前者のは剛太の質問に対する答えとして本当にそれでいいのかという気もするし。まあ、カズキは人が良すぎるから、他人も悪人とは思えないのでしょう。
 つうか気がつくと小説本編の話からズレてるな。
 まあ私としてはカズキが善人キャラなのはまあいいとして、/Zでの経験を踏まえて、更なる成長を続編で見せてくれたら非常に嬉しいです。
 あと本編。今回は、原作でまったく触れられていなかった、『ムーンフェイスに倒された四人目の戦士(金城が持っていた核鉄の本来の持ち主)』。名前だけムーンフェイスが出てきましたが、こいつも小説版でもっと補完されてほしいですね。元々は別の活躍予定があったらしいし、楽しみ。え、パピヨンパークやれ? うーん。
 その前に、ジェヴォーダンの獣を借りて、シルバースキンの元ネタでも拝もうかな。

*1:まあ、打ち切りの都合で当時そんなヒマはなかった気がしますが