黒崎薫・和月伸宏『武装錬金//』レヴュー
- 作者: 黒崎薫,和月伸宏
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2006/10/27
- メディア: 新書
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ただ、章の始まりに挿入されている二行詩とか(続編の第二弾ではなくなっている)とか、かなりライトな文体は小説を読みなれた人にはきつい気も。まあ漫画本編の読者には入りやすい親切設計ですし(むしろそれ狙いかも)、そのうち慣れていくので細かいことです、ハイ。なら言うなよって突っ込みはナシね。
さて粗筋。
期末テストで赤点を取った武藤カズキは、いつもの仲間(六枡のぞく)とともに斗貴子さんのスパルタ指導を受けていた。しかしそんなさなか、こっそり早坂桜花からリークされた情報に思わず勉強をほっぽり出してしまう……。重要な伏線の殆どを綺麗に回収した武装錬金ですが、細かい瑕疵は残っています。そんな未回収の伏線の一つ、『パピヨンが所持する核鉄の処遇』が話の発端。
核鉄の回収にやってきた火渡赤馬、ヒマなのかロッテリやでパピヨンセットを食べてる大戦士長・坂口照星。キャプテン・ブラボーこと楯山千歳などかつての照星部隊勢ぞろいの状況で、核鉄について一つの取り引きが提案される。
パピヨン「核鉄を持つホムンクルスを、なぜ、ことさらに憎むのか。その理由を洗いざらい話してもらおう。長い人生、面白い話のひとつもないと、退屈だからな。その話が核鉄を引き換えにしてもいいってくらいの内容だったら、交換してやるよ」
こうして、「核鉄を持つホムンクルスを憎む理由」として、照星による火渡・ブラボー・千歳が7年前にやった「任務失敗」の件が語られる事となった。それは斗貴子の故郷と過去についての物語でもある。
とゆーわけで10歳の斗貴子さんが見られるわけですが、存在感はあんまりないです。東里さんとおまじないの話をしているのは微笑ましかったですが、その後が……ね。あと合わせ鏡のおまじない、マジで未来見えてる(笑)。
幼少斗貴子さんより、20歳と18歳の火渡・ブラボー・千歳さん、あとえーと三十路一歩手前の照星さんチームがむしろ見所でしょうか。天才型火渡の考えは、芝村舞*1の「天賦の才とは天からの拾い物。拾ったものは、天に返す。ゆえに、この力、万民のため」という思想とよく似ててかなり好感触。本編で入らなかったフォローでいいですね。
ブラボーは、キャプテン・ブラボーと名乗る理由やネーミングの由来。あと「そのほうがカッコイイから!」などなど、現在のブラボーを構成する要素の起源がそれぞれ語られています。こういうのは外伝的な余裕があってこそ出来るってものですね。
千歳さんは、歳相応に実に初々しい。なんで照星さんが女性の服を的確に選べたり、大人っぽく見える化粧の仕方に詳しいのかに誰も突っ込んでくれませんけど。火渡がいたら突っ込んだんでしょうか。
ぶそれん本編を読んでいないのに、小説版を購入する読者は稀ということで、読者にとって破滅がまっているのは周知の事実。ただ、照星さんが語る昔話という体裁をとっているから、一応暗いままの話では終わらなくなっています(最後にギャグオチもついたしね)。平和な現在で、戦いの過去をサンドイッチにした構成であり、その哀しい過去は現在に明確に繋がっている。
が、そうと分かっていても物語中の出来事は、『防ぐことも避けることも出来ない悲劇』に向かって進んでいきます。津村家で使用人として働くブラボー、ちょっとガキんちょと交流する火渡、一生懸命教師役を務める千歳。幸せだった人たちが無残に人生を終わらせられるその光景*2。
とはいえ、この話を聞いたカズキはカズキで、唯一嫌っている人物である火渡に対して理解を深めます。そして、自身もまた不条理を内包していること、それと折り合いをつけて生きていく事を決意して綺麗にシメとなりました。
あとはパピヨンの核鉄その後のフォローとか、再就職した再殺部隊全員集合とか。戦部みたいな戦闘狂が、本当に漁師なんかで満足できるんかのう。そのうち鯨と素手で格闘しそう。いや、鮫か。それと火渡も再就職先が決められちゃいましたが、まだ戦団に残っている照星さんと(神父になるんかな?)と、千歳さんの身の振り方が極まっていませんね。
作中で出す暇がなかった、核鉄のデザインラインについての補足説明もあり。こういう説明って小説向けだね。半分は前に使用者の気質、半分は現在の使用者の気質を継承したデザインになる……たまに前の使用者のデザインを受け継いでないやつが出てて、作者が忘れているのかと思ったら、そんな設定だったとは。後付かどうかはこのさい考えないようにしましょう。